霧の深い、森の中、アイチはブラスター・ブレードにライドし、高速で移動していた。
背後に迫る影に注意しつつ、剣を構え直し、体勢を変えて振り向き。

「バーストバスター!!」
ブラスター・ブレードの一撃によって、敵・・ダイユーシャは巨大な爆音とともに倒れる。
完全に動かなくなったことを確認すると、何者かが拍手を送りながら現れた。

「凄いよ、アイチ君。見違える成長振りだ」
「ありがとうございます、光定さん」
薄黄金色の髪の男、ずっとアイチの稽古の練習相手になってくれていた最強のヴァンガードの一人。
AL4連合国が怪しい動きをしているとの、情報でクレイアカデミーで調査をしていたのだが
アイチの活躍により、ローマ帝王国への帰還が決まった。

「これなら、もう僕に教えることはないよ」
「そんなっ・・まだまだ勉強不足です。
だからクレイアカデミーにも通い続けて・・もっと光定さんにもいろいろ教えてほしかった」

稽古してくれるのも、今日で最後。
太陽が昇り始め、一日が始まろうとしていた。

休校から数か月、ようやくクレイアカデミーは全ての授業が再開。
でも、全てが今までどおりというわけではやはりなかった。





良いこともあれば、悪いこともある。
しかしアイチ達は知らなかった、先導者がこの時代に現れた本当の意味を。

本当の戦いが、これからだということを。



「おはよございます!!アイチお姉さん!!」
「おはよう、カムイ君」
女子用の制服に着替えたアイチを出迎えたのは、カムイで一時祖国に戻ることになりアイチ達と離れ離れになり
エミに会えず寂しい想いをしていたが、今日は待ちに待った・・。

「アイチ、ほらっ・・ハンカチ忘れてるよ」
同じ女子制服に身を包んだエミがアイチに、ハンカチを手渡す。
先の戦争で実力が評価され、カムイ同様に特待生としてクレイアカデミーに入学することになり
バミューダ△のヴァンガードを目指すことに。

「・・・・あぁ・・エミさんと通うことになるなんてっ・・だが!!何故だーーー!!」
エイジとレイジもカムイと同じ制服を着て、エミに挨拶をしている。エミと同じく、入学を特別許可されたのだが
せっかくエミと同世代二人っきりでスクールライフを楽しめると
喜んでいたのにと暗い影が顔に隠す。

「さっさと行くよ」
「えっ・・・はっ・・はい!!」
ミサキに声をかけられて、皆はすでに先へ進んでおり、慌てて追いかける。

アイチとミサキは、男装して通うこともなく実力は認められ男性と対等に戦えるヴァンガードとして
現役ヴァンガード達からも高く評価されているとか。

特にアイチは、レンと櫂に並ぶ『三強』の中でも、もっとも強いとされヴァンガードであり

さらにPSYクオリア、光の先導者。
アイチ自身も櫂が「好きにしろ」とクレイアカデミーに行くことを許したのは意外だった。

絶対に止められると、覚悟していたのだが三和曰く「少しは成長したってことさ」とか。

「でもっ・・カムイ君。もうボディガードみたいなことはしなくていいよ」
「いいえ、アイチお姉さん!!世界で二人しかいないカードを作れるんですよ!!
もう少し、危機管理というものを持つべきです!!」

エイジとレイジと共に、大げさに構えながら校舎に入っていく。
確かに、以前よりも見られている感はあるが、しばらくすれば収まるだろうとアイチは考えたが

認識が甘かった、のだと・・下駄箱から思い知らされる。

「・・・・あれ、開かない?」
下駄箱の取っ手部分を、いくら引っ張っても開かない。
何か固い物が引っかかっているように、固い。

「どうかしたの?」
いくら引っ張っても開かない様子にエミが話しかけ、全力で取っ手を「せえっぃっ!!」という掛け声と一緒に引っ張ると

開いたが・・、多量の手紙が溢れ出て小柄なアイチは手紙の中に沈む。


「アッ・・・・アイチーーー!!」
全員がかりで、手紙の中から目を回しているアイチを救出。
全てアイチ宛ての手紙、幼少期にいじめられた経験を持つアイチには脅迫状・中傷手紙かと開けるのに戸惑う。

「なんだ!!この手紙・・・・・・・は・・・・・・」
その中の一枚を適当に、カムイが取り中を開封したが、目が点になっていた。
騒ぎを聞きつけて井崎と森川もやってくると手紙の中身を確認すると。

「・・・『貴方のことが好きです』『結婚前提につきあってください』・・・だぁ?」
下駄箱が開かないぐらいに、詰められていた手紙は全てラブレターで愛の告白にアイチは気を失いかけていた。
全員が手紙の中身を見たが、全てがアイチに愛を告白する内容ばかり。

「なっ・・なんでぇぇぇ?」
こんな胸もなくて、小さくて平凡な顔の自分などに
ラブレターが多量に送りつけられていることに声を上げて驚くしかなかったが

教室の自分の机の上には、プレゼントのアタック☆なのはいいが机がプレゼントに隠れて

座ることすらできない。

「モテ期・・なのか」
森川は、固まるアイチに視線を向けながら、呟いた。
異性にまったくモテなかったアイチが、男性に愛を告白されるが、突然のことで頭が整理しきれていない。

クレイアカデミー男子からの、アタック☆だけでも混乱していたのに
さらにアイチは整理しきれない事実に今度こそ、失神しそうになる。





「僕がっ・・生徒会長!!」
全校集会の後、学長のドクターOに呼ばれれば、自主退学した美童達に代わりに
アイチが生徒会長、副会長にはミサキが推薦されたのだ。

「うむ、世界を救った君達にならできるだろう、期待しているよ」
「生徒・・・会長・・・・僕が・・・・!!」
振るえる指で、自分を指差すアイチ。書記などの役職には森川達やエイジにエミまで会員になっていた。

「でっ・・できないですよっ・・僕なんかが!」
櫂や三和ならともかく、いつも二人の影に隠れて守られていたばかりの自分などに辞退しようとするが。

「これを機会に自分に自信を持つべきだよ、アイチ君。胸を張っていいのだよ・・君は強いのだと。
今まで助けてもらった分、誰かを助けてあげようと今の君なら可能だ」
「うっ・・でも・・・」
そう言われては辞退できず、理事長室の隅っこで体育座りをして何やら呟いている。
最後のあいさつに来ていた光定も、「アイチ君ならできる」と爽やかに応援しているが。

「光定、国に帰ったら戴冠式だって」
ユリの言葉にピシリッと、光定が固まる。
そしてアイチと同じように暗い影を落し、隣に座って「また目立つ・・・」と呟いている。



結局断れず、ダイユーシャに乗ってローマ帝王国に帰っていく、光定を見送る。
その後、皆と帰っているとイケメン系男子がバラを手にアイチの前に現れ、カムイ達前に出てガードするように立つ。

「見つけたよ、我が女神・・さぁ・・式場の予約はできているよ・・参ろう」
「えーと・・・・?」
何を言っているのかさっぱり理解できずに、アイチの手を取ろうとするとミサキに庇うように前に出た。

「あんた、自分の葬式の予約でもしてきたの?」
鋭い眼力で睨むが、怯む様子はない。

「いやいや、君もなかなかの美人ではあるが・・僕の心はアイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリのものさ」
キラリッと輝く白い歯、アイチはますます混乱している。
こんな会ったばかりの男と何故結婚を申し込まれるのか、とにかく逃げようと、それしかないと走ろうとしたが。

「待て!彼女は渡さん!!」
「なんか、また来たぞ!」
後ろにいた森川が、新たなアイチの求婚者に顔を引きつらせる。
前にイケメン、後ろにもそこそこイケメンだが、カードを構えているところからしてヴァンガードらしい。

「彼女は私の運命の相手、突然現れたお前などに渡さん!!」
「貴方も、突然現れたんですけど!!」
アイチの精いっぱいのツッコミだが、両者に聞こえておらず、イケメンもカードを取り出し、戦い始める。
土煙に襲われると、誰かがアイチの手を引っ張る。

「えっ・・ミサキさん?」
強い力に引っ張られるまま、進むと煙がなくなると赤の他人の男がアイチの腕を引っ張っていることに気付いた。

「やぁ、ハニー」
真っ白になるアイチ、結婚式にでも行くようなタキシードをきた男は
「さぁ、このまま教会へ!!」などと強引に結婚しようと言い出す。

「しっ・・・しません!!」
バサッとアイチの背中から黄色の翼が現れ、服が変化する。
ソウルセイバー・ドラゴンにライドしたのだ、そのまま上昇し、男から逃げていく。

ある程度、飛行し、エミ達の元へ戻ろうとするが。

「空の散歩ですか、いいですね?」
ギギギッ・・という音と共に、振り向くとバラを持ったイケメンがユニットに乗っていた。
しかも一人ではない、数人の男が皆アイチに告白をしてきたのだ、しかもアイチを無視して
誰がアイチにふさわしい男か喧嘩し始めた。

「僕はロイヤルパラディンになるまで、恋愛しないって決めているですっ!!」
急加速で、彼らを振り切り、逃げていくアイチ。
ソウルセイバー・ドラゴンの加速は、ユニット最高速域クラスで簡単には追いつけず、彼らは諦めるように溜息をする。

半泣きしながら、このままクァドリ・フォリオ皇国へ行ってしまいそうな速度を出し、空を駆ける。

「ううっ・・なんでこんなことにーーーー!!」
半泣きし、叫びながら、落ち着くまで止まることのない飛行。
落ち着きを取り戻したのは、夜だった。

女子寮に移ったミサキ達だが、アイチと離れてしまった後、しつこくアイチを紹介してくれと(特に男子)追いかけられ
寮に逃げ込んだが、正門の前にはアイチの追っかけらしい男達が。

「あいつらっ・・まだいる」
「アイチ・・大丈夫かな・・・・」
心配そうに、待ち伏せをする男子を見つつエミは未だに帰ってこないアイチを心配していると
正門が見える窓とは、反対方向の窓からノックする音が聞こえた。

「アイチ・・!」
「しーーーっ・・・」
木の枝に乗り、ミサキは窓を開け、木の葉を何枚か室内に入れ、帰宅。
ライドは解除し、女子制服に戻るとエミの夕食を食べながらミサキから突然アイチのモテ期がやってきた真の理由を聞いた。

「光の先導者だから、アイチの力だけを狙っているってことよ」
目を細め、アイチに本当に惚れたのではなく力のみを狙っているとミサキは考えていた。
でなければ会ったこともない男から、告白されるなど、ましてや最近まで男装していたアイチが急にモテるなどおかしい。

ヴァンガード達を導く、先導者はその力をもってカードを作り出せる。
巨大な軍事力も、資金も無限に生み出すこともできる、最高の能力。

レンも同様に女性から、求婚されているのだろうがアイチは裕福な家系でもなく、大した権力もない。
気弱で押しに弱く、容姿も悪くない、そこを突いてきたのだろう。

我先にアイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリを。

「とにかく、アイチは絶対に一人になっちゃだめだよ」
「うっ・・・うん」
その日の夕食は、美味しくなかった。
レンの時とは違う恐怖、アイチの力が功績と共に広がり、皆がアイチを欲している、ただアイチの持つ力を。

念のため、理事長に女子寮の警備を強化してもらったが、アイチは緊張して眠ることができなかった。
何度も寝返りをし、今日一日で生徒会長になり、男子に狙われる嫌なモテ期になるわ。

自分では大したことはしたとは、思ってなどいない。
レンとのことも、ただ止めなければと無我夢中であったし、世界を闇から救ったと皆がアイチに感謝するが

凄いことをやったのかど、自覚があまりない。


「そうだ・・・レンさんのところにメールしてみよう」
シーツを被りながら、携帯を開く、あの時の交換したメルアドに今日あったことを打ち込んで送信。
うとうとしていると、マナーモードにしていた携帯が揺れる。

「・・・返事?」
携帯を開くと「それなら、問題ないですよ(^O^)」と顔文字付きの返信がきた。
何が問題ないのだろうかと考えている間に、アイチは眠っていた。


















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