帰り道、シンゴ達と別れ、歩いているとレンが思い出したようにアイチに聞いてきた。
「そういえば、テツから聞いたのですが、彼らを助けようとして喧嘩したとか」
「喧嘩って・・・矢も得ずですけど」

にこにこっと、機嫌が少しは直ったのかと安心していたアイチだが。
次の瞬間。


「−−−−で、相手は誰です?嫁入り前のアイチ君の顔にキズをつけて
死ぬよりも恐ろしい恐怖を味合せて差し上げますから」

緋血の闇帝王が、報復を計画している。
櫂にも問い詰められたが、彼らの命が危ないと最後まで言わなかったが似たようなことを考えている人間がもう一人いた。

シンゴはアイチ以外、性格が歪んでいると言っていたが、集団行動は・・・できないのは当たっている。
さらに数日後、彼らが謎の襲撃に合い重傷を負って宮地を去り
犯人は特定されずと聞いて、真っ先に犯人がアイチの脳内で判明したのは言うまでもない。

そして、二度とアイチは最低限、戦わないようにしようと誓うのであった。
のちの被害の方が大きくなるからである。




心臓に悪い一日が終わり、いつもの青パジャマ姿で明日の準備をする。
櫂はテツと話があると、外出禁止の時刻となったが、こっそりと外に出ており、室内にはアイチだけ。

「先に寝てろって言っていたし、寝ようかな」
カードを念のために、枕元に置くと頭の中に暗闇の中。蛍が通りすぎたような不思議な感覚を感じた。
まだ電気は点けたままなので、蛍がいてもわかるはずかないし、いる時期でもないのに。

気のせいだと、思っていたらまた、同じ感覚。
アイチの瞳は青と黒のグラデーションのように色へと変化し、ふらっとカードケースを持ったまま立ち上がる。

ドアを開き、呼ばれている場所へと不安定な足取りで進んでいく。


数分後、櫂が戻ってきた。
ラフな姿で、アイチが寝ているのだから静かにドアを開けたのだが

電気は付けっぱなしのままだ。

「・・・アイチ?」
明日の準備は終わっていて、あとは寝るだけというところで止まっている。
また何かあったのだと、櫂は再び、外へ出る・・念のため、かげろうのデッキを持って。


こっちだよ。

(そうだ・・こっちだ・・・)
誰に呼ばれているかわからない、でもこっちに『ある』気がする。
危険だとか、櫂かレンと一緒に行った方がいいという考えも浮かばない。

此処だよ。

暗い通路の、石造りの壁に触れようとしたところで「アイチ!」と櫂に呼ばれ、アイチは我に戻る。

瞳の色もいつもの青い色になり、意識も鮮明になって
歩いてきたのになんで此処にいるのだと自分の行動にわけがわからない。

「こんなところに何の用だ?」
「僕にもわからないけど、でも・・」
石造りの壁の一部に触れると、壁は奥へと抜け、アイチはただの壁だと思っていたのに前に身体は倒れる。

「えっ・・嘘・・・!!」
「アイチ!」

櫂が手を伸ばすが、まるで何かに引き寄せられるかのように倒れる力に負けてしまい、二人とも底知らぬ闇へと落下していく。

いつもなら、ソウルセイバーの翼で浮上できるのにゴールドパラディンでは!!
カードを持っているのに何もできない、悔しい。



〈それは、何もできないんじゃない。何もしようとしないのと同じだよ〉



「誰・・・・?」
目を開けるとそこは薄暗いが、視界は効く場所だった。
柔らかくて温かいものが下に敷かれて、それで助かったのだとホッとしたが、それは櫂で咄嗟にアイチを庇ってくれた。

「ごっ・・ごめんなさい!僕・・」
慌てて、後ろへと下がる。
櫂は気にする様子もなく、起き上がり、余裕ないつもの調子で「怪我はないか?」と聞いてきた。

「うんっ・・櫂君のおかげで・・ありがとう・・」
「・・・気にするな」
アイチはただ落ちるだけで、何もしなかったのに櫂はあの中で冷静に判断したのだ、やっぱり凄いと改めて尊敬した。

「それよりも、此処は地下か?」
「・・・古そうだね」
軽く数百年は超えている、まるで古代遺跡のようだと物珍しそうにアイチは辺りを見ていた。
最初櫂も年代が分かるようものを探していたが、己の手の平を何度か握っては広げてアイチに聞こえない程度の音量で。

「白桃ぐらいか・・」などと、呟いていたとか。
それが何の大きさか、アイチの耳に聞こえていてもきっと理解できまい。


とりあえず、出口を探そうと二人で歩いていて、また意味不明な行動をされると大変だと櫂はアイチの手を握る。

(こっ・・こんな時に、何考えているの!!僕の馬鹿)
つい意識してしまうことに、自分でも情けなくなってきた、櫂は周囲を警戒しながら、冷静にしているというのに。

(・・婚約のことも、僕のために。櫂君は他に好きな人とかいるんだろうな)
皇帝であるが故に、許されぬ恋。
全てを手に入れられる一国の主なのだが、櫂は望んで王になりたかったわけではない。

政治戦争を終結させるために、王の地位に座ったのだ。

きっと櫂の好きな人はシンゴの言っていた『白青の姫騎士王』のようなのだろうな。
そう考えると泣きそうになって、隣で歩く価値もないのではと気弱に思ってしまう、こんな弱い自分、嫌いなのに。


そっちじゃないよ、こっちだよ。

「誰・・・・!!」
歩みを止め、辺りを伺うアイチ。
櫂は反応していなところを見ると、どうやらアイチにのみ聞こえているようだ。

「どうした?」
「誰かの声がするの・・こっちに何かあるみたい」
どうせ出口をわからないのだと、アイチの第六感、PSYクオリアの力を信じてみることに。
進み連れて、空気が冷えてくる、それでもアイチは声はこっちにすると歩いていくと。


「あれは・・・!!」


ダンスホールほどの大きさの場所に出ると、階段の上に置かれた台座の上に輝く一枚のカード。
探していたアクアフォースのカードの一枚ではないか?

「ほぅ、俺達よりも先に見つけたか」
櫂でも、アイチの声でも第三の人物の声に後ろを振り向くと、レオンが、水色の髪の少女を一人連れて立っていた。
彼はクレイアカデミーを襲撃したものの一人だと、アイチが言うと一気に警戒度を上げる。

すでにカードケースからカードを取り出すが、アイチは僅かに躊躇う。

「新しいクランか、ロイヤルパラディンは強力なダメージを与えたからな。
・・・ゴールドパラディンか、こんな短期間に使いこなせるのか」
レオンの言う通り、一度だけあるユニットのカードをライドしたがあまりにも衝撃に一度しかライドできなかった代物。

「レオン様、此処はジリアンにお任せを!!アクアフォースの力をもってすれば、三強の二人など!!」
「お前では、力不足だ。俺はトシキ・櫂・ドラゴンエンパイヤを相手にする、お前はそいつを」

「わっ・・わかりました!!」
気の強そうなジリアンに、気弱なアイチは慣れないクランで戦わなければならない。
いつもの櫂なら二人ぐらい余裕で相手にできるが、見たこともない伝説のアクアフォース相手に情報が少なさすぎる。

どうでもいい時に限って、レンがいないなんて。
とも思うが、レオンと戦いつつ、アイチを援護するしかない、内心そうは甘くアイチに対して考えてはいるが。

「ゴールドパラディンか、・・・・躊躇するなよ。アクアフォースを渡してもいいのか?」
お前の甘さで奴に力を与えてしまうぞと、迷うアイチに厳しい一言を言うと、「ごめん、僕もう迷わない」と一枚のカードを取り出す。

小さい頃から、ただロイヤルパラディンになるため。
まるで共に成長し、半身のように大切にしていたクランを失ったアイチには厳しい現実だが

今は、厳しい言葉で前に進ませるしかない。


「封竜 フランネルにライド」
地下ではG3クラスのカードを使えないと、黄色の剣の剣と剣に似た色の服に変化する。
それに対し、レオンもライドし、最初に見た海軍のような服を纏う。

「行くわよ、ティア―ナイト ヴァレリアにライド!!」
ミニの軍服に背の高さほどの巨大ロケットランチャーを構える。
地面に下すだけで、床にヒビが入り、相当な重さであるとことがわかるが、せっかく見つけたアクアフォースを渡すわけにはいかない。

「灼熱を纏いし戦士よ!その爆炎で、絶望の民を希望へ導け!灼熱の獅子 ブロンドエイゼルにライド!」
ゴールドパラディンにふさわしい黄金の光は、櫂やレオン達も照らす。
そして、アイチがライドするのに躊躇した理由も明らかになった。

露出部分が、とにかく多い。
胸の谷間に、へそを大胆に見せつけた腹にミニスカートは足を高く上げたら下着が見えてしまいそうな。

決して貧相な体をしているわけではないが、露出の高い服に慣れていないので
恥ずかしそうに顔を赤くしながら、二つの剣を構える。


感情が顔に出にくい櫂も、アイチのそんな服に驚きを隠せず
戦闘中であるにも関わらず、思わず凝視してしまったのであった。








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