「行きますっ!!」
片手にそれぞれ、一本ずつもつタイプの剣はあまり使ったことはないが
戦闘に戸惑いながらも、ジリアンと戦っていく。

しかし、最初もう一人いたような・・。
そう感じながらも、今のアイチには目の前の相手と戦うだけで脳の容量はいっぱいだった。

櫂も戦っている間に、レオンの動きとアクアフォースというクランについて慣れ始めて
決着をつけようとその動きは強さを増す。

あと少しのところまで、追い詰めたところで。


「やりましたよー、レオン様!」


やはり、もう一人隠れていたのか、アイチと戦うそっくりな少女が嬉しそうにアクアフォースのカードを手にしていた。

「双子?」
「よくやった、シャーリーン」
レオンが手をかざすと、まるで主の元へ帰るかのように一瞬消えると、レオンの手に戻っていく。
そして青色の光を放つ、櫂は身構えるが迂闊に攻撃もできない。


「見よ! あらゆる悪徳を洗い流す激しき潮の流れを・・・その名は正義!蒼嵐竜 メイルストロームにライド!!」
潮風に似た匂いのする風が、レオン以外に吹きつける。

突風が収まり、レオンの服は軍服に似た姿なのは同じなのに
色とデザインが僅かに違う上に、威圧感もさっきとは比べ物にならない。

「これが・・・メイルストロームの力・・素晴らしい」
前に手を出すと、細長いライフルが現れ、レオンは迷わず引き金を引くと、巨大な光線が生まれ、櫂とアイチは巻き込まれ

さらに地下の天井が崩れ、上から崩れ始めた。

「行くぞ、此処にもう用はない」
「あの人達、死んだのかな・・・・」
敵なのに、心配そうにするシャーリーンをジリアンが叱っているとレオンは背中を彼女らに向けたまま。

「この程度で死ぬものか、三強と言われたヴァンガードだぞ。
地下で力を押さえたか、地上で再び会えた時、全てのアクアフォースを揃え、戦える日を楽しみにしているぞ」
落ちてくる天井の石に向かって、レオンは楽しみだと笑みを浮かべていた。
生きているとレオンの顔にもかいてあり、それなら安心だとシャーリーンは迷わずついていく。

レオンの言うとおり、櫂とアイチは生きていた。
櫂がオーバーロードにライドして、炎の壁を作ってアイチを守っている。

避けられなかった天井の石の一つがアイチの頭部に直撃して、頭から血を流して気絶はしているが生きている。
とにかく逃げる方が先だと、天井に大穴をわざとあけて、地上へ出た。

満月の夜の空に出ると、地上にあったのは、幸いにも校庭の一つで地上への被害は少なさそうだと確認すると
アイチを横抱きにしたまま、地面に降りると地下の音を聞きつけてレン達が最初に到着していた。

「櫂、それにアイチ君!」
頭から血を流すアイチに、触れようとしたが櫂がそれを阻止。
「気絶しているだけだ」と感情を読み取れないような声質で、必要最低限のことをレンに話す。

「人が集まってくる、話はあとだ」
レンと一緒にいたテツは、アイチと櫂の部屋に一時行くことに。
地面が突然崩落したと消灯時間を無視し、部屋の灯りはつけられ、皆が混乱していた。

アイチの手当をテツが済ますと、櫂からアクアフォースのカードが
やはりこの学園にそれをレオンに奪われたと説明を受けていた。

「・・・何者なんでしょうね?その彼というのは、アクアフォースに関係している人間なのは間違いないですが」
「わからん、しかしアイチはアクアフォースのユニットの声のようなものに引き寄せられた可能性が高い。
目を覚ましたら、詳しく聞いてみるつもりだが、お前はどうだ?」

同じ能力をもつ、レンにも同じ声が聞こえるかと尋ねるが、首を横に振る。
アイチにしか聞こえない、不思議な声。

話しているアイチが目を覚ました。

「此処は・・・・痛っ!!」
頭を打ったことの記憶のないアイチを、テツはベットへ横に戻るように支える。
振れてようやく、怪我をして、櫂の足手まといになったのだと自覚して、泣きそうになった。

「ごめん・・・僕また・・」
「気にするな、お前はアクアフォースの声を聞くことができる。それだけで十分な収穫だ」
ローラー作戦で、宝探しみたいな真似をしなくていいということだけでも良い。
もしもアクアフォースのカードが全て揃ったとしても、残りのヴァンガード全員がかりで止めればいいだけのことだ。

「そうですよー、僕達三強の前に敵はいないです。アイチ君は今はゆっくり休むのが仕事ですよ」
「何かあったら起こす、今は寝ていろ」
レンにもテツにも、気を使わせられているような気がして。
泣きそうに潤む瞳をシーツを被って隠すしかなかった、皆がいる前で泣くなんてできない。

(あの声のいうとおりだ、防ぐことができたのにゴールドパラディンを使うのに慣れてないからこんなことに)

シーツを強く握りしめて、アイチは決意する。
ゴールドパラディンを使いこなせるようになりたい。



今回、地下崩落したのはアクアフォースの一件と関係していると国外から指摘を受けたが
この学園国家の王である生徒会長の内藤・タテワキ・アーサーは動揺せず、優雅に高級茶葉使用の紅茶を飲んでいた。

「国外からの調査団を受け入れろと、私の国を他国の愚民が踏み荒らすなど耐えられん」
「しかし、伝説のアクアフォースの文献は我が国家にもございます。此処は協力すべきかと・・」
冷静な判断を求めたが、眼力一つで黙らせられた。
かつてAL4連合国と同じ独裁国家であり、内藤は幼少の頃からヴァンガードとしての英才教育の受けており

自他共に認められている、優秀なヴァンガードなのだから。
万が一の事態が起きても副会長のイツキ・諏訪部・ボナパルトの率いる『ピースメーカー隊』が処理に十分に当たれるだろう。

「世界生徒会会議には、予定通り出席する。準備を」
秘書の女子生徒は軽く頭を下げて、準備を始める。
一国の王でもあるが、生徒会長でもあり、久しぶりに開かれる国外の会議に出席するという情報はアイチ達も入手。


幸いにもアイチは生徒会長であり、インフルエンザと仮病を使い、一時宮地を離れ、たかが学生の会議場にしては
豪華すぎるホテルの会議室を使用、軽くそこでミサキ達と久しぶりに再会を果たす。

「久しぶり、アイチ」
「ミサキさんも元気そうで何よりです」
アクアフォースのカードが見つかり、超警戒態勢ではあるが敵もカードがあると知らない可能性もあり
光定達が極秘に戻ってきて、代わりに番をしてくれているとか。

人に聞かれてまずいと、広めのホテルの一室を借りて、エミは皆に紅茶とコーヒーを淹れてくれた。
宮地であったことをアイチが順に説明をし、アイチと同行してきたレンと櫂も椅子に座らず壁に寄りかかる形で聞いている。

「そっか、大変だったわね」
特に櫂とレンに挟まれて、苦労が絶えないだろうとはきっと三強+アサテツ以外は同情しているだろうに。
未だに見たことのない、宮地の生徒会長を拝むためにきたが女性の服を着てもバレるのではと
取れたばかりの包帯についていた頭を抱えていると。

「それなら心配ないわよ、アイチ」
エミは何処からか、青い髪の鬘を取り出した。
さらにミサキは化粧セット一式を指の間に挟み、メイクアップアーティストのようにポーズを構える。

「へ・・・・」
「さぁっ、アイチ!美少女生徒会長にメイクアップよ!!」
空気を察した男子は、無言で退場。
変身シーンを見学すると駄々をこねるレンを櫂と三和で服の首根っこ掴んで外へ引きずる。

数十分後、ロングヘアにして、薄く化粧をした美少女生徒会長アイチは完成した。
特別仕様のクレイ生徒会長の服もよく似合っている。

「おおー、これなら騙されるぞ!!」
「男の恰好をした時は別人だぞ!!」
井崎と森川は、第三者の目からも騙されると珍しく褒めている。
照れている姿も可愛く、確実に大人の女性へと美しく成長しているのに櫂の反応は相変わらず表に出にくい。

表情一つ変えず、遠目で何の感想も言わずに見ているだけ。

「それじゃ、行ってきます」
影から様子を見る組の櫂レンと、堂々と生徒会役員として表に出る組とで別れ廊下を進んでいくと
他校の生徒会とも会うと握手をするが、異性の生徒会長は何故かアイチと話すだけで緊張しており

(新参者だもんね・・仕方ない)
まったく、見当違いなことを考えていると、周りの生徒達がざわめく。
宮地の生徒会がまるで王が従者を引きつれて歩くように進んでいく、声をかけるか悩んでいると
彼らをよく知らない新参者生徒会が、挨拶と握手を求めたが

「下賎な地位の者と同じ会長というだけで握手などしない」と
傲慢な言葉を放ち、ゴミでも見るような目で去っていく。

「なんだっ!!あいつらは!!」
胸糞腹が立つとカムイは怒っているが、近くにいた古株の生徒会達は彼らのことを教えてくれた。

「ああいう奴らなんだよ。気にしない方がいいよ」
優秀で地位のあるヴァンガードとも繋がっていて、迂闊に近いたりしないし
不愉快な気持ちにさせると潰されるとまで聞かされる。

関わらないことが一番だと、そんな話を思い出しながら会議は進むと。

関係書類を眺めつつ、内藤にさりげなく目を向けた。
あの地下神殿のことをただの自然災害と国内に発表し
アクアフォースについて何か知っているかとアイチ達は考えている。

(関わらないことが、最善だけど・・今はそれどころじゃない)
伝説のアクアフォースと謎の虚無によって、世界は危機を迎えようとしているのに。
光の先導者としても未然に防がなければと、帰り際にアイチはミサキ達共に彼らの前に出た。

「貴方が、宮地の生徒会長で国王でいらっしゃいますか?僕は・・・」
「無礼者、この方を・・・!」

「下がれ、諏訪部副会長。噂では彼女は三強の一人・・アイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリと聞く」
声も出ないほど驚き、すぐ後ろに下がる。
レンも倒した現最強のヴァンガード、守る側のヴァンガードだが逆に一秒で吹っ飛ばされると冷や汗を流す。

内藤とアイチ、まっすぐと相手を見るアイチと余裕でもあるが何処か見下しているかのような目の内藤。

「アクアフォース探索のため、学園へのと訪問を拒否したということですが
光の先導者としも、これは世界の危機の前触れであると考えいます。どうかお考え直していただけないでしょうか?」
相手のプライドを刺激しないように、選んだつもりの言葉だが。
交渉相手がアイチであっても、内藤は考えを変えることはなかった。

「今月、光定新皇帝にもそのような書面で似たようなことを言われたが、三強と言われたヴァンガードは
我ら宮地の力を借りたいほど、ひ弱であるというのですか?」

「・・・・っ!!」
後ろで聞いていたミサキとカムイは、不快を通り越して心の温度が怒りの沸店に一気に達した。
アイチは返す言葉も思い当たらずに内藤はさらに。

「世界は我が国を力の身でのし上がった輩の入ることの許されぬ聖なる土地。
調査団を受け入れなかっただけで被害が出ようが、逆に君らを受け入れたせいで国が荒れることの方が心配だよ」

どうしてもというのなら、力で我が国に来たまえ。
などとアイチ『には』、不可能な方法を提示し、背中を向けていなくなると、床にやったりするように大きく足を振り下ろす。

「だーー!!今すぐ、俺のユニットで踏みつぶしてーーー!!」
「同感だーー、俺様のG3で地面の肥料してやるぜーー!」
珍しく意見の合っているカムイ・森川組を、エイジとレイジ、そしてエミは苦笑してみていたが
彼らほどではないがあの態度は、三和曰く「あっぱれなほど傲慢」だ。

影で見ていた櫂とレンも、険しい顔をしている。
取りつく島もなく、やはり自分達で何とかするしかない、その前にゴールドパラディンを使いこなさないと気持ちを切り替えた。

「アイチ、ロイヤルパラディン・・まだ回復しないの?」
心配そうにエミが話しかけてきた、ミサキから今はゴールドパラディンを使っていると聞いて
あんなに大切なしていたのを知っているだけに、万全の態勢ではないアイチのことが心配だ。

「平気だよ、きっと使いこなしてみせるからっ!」
後ろを歩く男連中は未だに、怒りの温度が冷めないでいると重たい荷物を抱えながら歩く




ナオキと会ってしまった。




目が合い、固まるアイチ。
スーツケースを三つ重ねて持っていたが、思わず落してしまうナオキ。


「・・・・・アイチ?」

さぁっと、脈拍が一気に加速モードに入る。
まさかナオキがこんなところにいるなど、予想外の展開であり、アイチはダッシュして逃げ出した。

突然走り出したアイチを皆が慌てて追いかける。


「・・でも、髪も長かったし・・赤の他人の空似か」
頭を掻いて、気のせいだと自己完結した。
アイチは今頃宮地で、移る可能性もある誰にも缶詰状態だというのに季節外れのインフルエンザで苦しんでいるのに。

テツに差し入れにフルーツ缶詰を託しておいたが、明日あたりにでもまた会いに行くかなどと考えながら
バイトを続行、スーツケースを持ち直して、ホテルの一室へと運んでいく。


『ーーーのくせに、騎士になるなんてお前、バカなんじゃねぇのか?』
「・・・んっ?」

何かアイチに関する、最も重要な情報を思い出したような。
だが肝心な部分がまるで、不良品の再生機器のように聞こえない。

あの声は、アイチをいじめていた男子の声だが
何かアイチに関して、騎士の家系という以外で忘れているような。



「思い出したらでいいか」
あのアイチに似た美少女を見た瞬間に、断片的に思い出した記憶だが
ナオキはのちにそれを思い出し、死ぬほど後悔するであろう。












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