インフルエンザだと、不審がられることもなく櫂とレンには
山ような女子からの見舞いの品が部屋いっぱいに山積みにされていた。
アイチには、ナオキからの桃の缶詰を、シンゴからは冷えピタリをテツから受け止ると
罪悪感で食欲不振になりかけたが、せっかくテツが缶を開けてくれたのでいただくことに。
桃の缶は、甘くて甘くて美味しかった。
次の日には久しぶりの登校で、レンと櫂の周りにいるだけで女子が群がってきてアイチは近づけないでいると。
「よぉ、アイチ。インフルコンザは完治したか?」
後ろにいるシンゴからは、一文字間違っていますよとツッコまれて一文字だけだろうがとか相変わらずの様子。
数日見ない間に不良とまじめな生徒二人が仲良くなっていて、ちょっと羨ましかった。
「この前の生徒会の雑用のバイトの金もあるし、軍資金も集まったしユニットのカード、買いに行くぜーー」
「なるかみ、雷系のクランですね。まぁ・・馬鹿には丁度いいクランですね」
「へえ・・ナオキ君。なるかみを選んだんだ」
聞けば、シンゴがいろいろと調べ、ナオキも珍しく頭を使って考えたとか。
そういえば、バイトというのは?
「ユニットのカードはグレードの数が大きければ、大きいほど高額なんですよ。
国が用意したヴァンガード育成費だけでは足りません」
「そんなに高いの?」
三人で朝礼が始まるまで、話しをしていた。
アイチはよく考えれば、代々伝わるロイヤルパラディンの使用しているのでどのぐらいの値打ちがあるのかわからない。
生まれた時から、生活必需品のように傍にいるため、それがどれほどの価値あるのだろう。
「じゃあ、ドラゴニック・オーバーロードとか?」
G3で最初に浮かんだのは、櫂がよく使う黙示録の炎の技を持つ、紅い竜。
「この世でただ一つのカードですよ、千万単位ですよ」
「「せっ・・!!」」
アイチはナオキは絶句する、G3のカードを使うだけでも大変だけど、持つのも大変だと。
改めて、そんなカードを宝の持ち腐れしていた森川が超セレブに見えたが、アイチのことを金の卵を生むひよこだと
人から聞いたが櫂との婚約前に、男子に追いかけていられていた理由も納得する。
誰もが欲しがる、力だと。確かにG3のドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンドなんて
億じゃないかと今更ながら自分でも恐い。
(僕のこと、知ったら二人も・・・)
そう想像すると悲しくなってくるような、三強はシンゴ達にとって雲の上よりもさらに上の神様のような存在で
同じ人間で悩んだり、苦しんだり、怒ったりもするのに
むしろアイチは彼らの方が遠くなったと話をきいて寂しくなった。
教師が教室に入ってくるシンゴは席へと戻っていくが、ナオキはアイチが何故か暗い顔をしていたのが気にかかり
授業中、真剣に電子黒板に書かれたことをノートに映していると後ろの席のナオキから手紙が届いた。
『お昼の時、話がある。それと気分が悪くなったらいえよ ナオキ』
ノートの切れ端に包まれていたのは、オレンジ味の喉飴三つ。
それを教師に気付かれないように口に入れると、自然と心が温かくなって、今までの靄が嘘のように晴れていく。
(そうだ、落ち込んでなんていられない。頑張らないと)
今の目標はゴールドパラディンを早く使いこなせるようになること。
アクアフォースのカードを、これ以上奴らの手に入れさせない。
青の目には光が戻り、背筋を伸ばして、前を向く。
後ろからだが、そんなアイチをみて、授業を退屈そうに聞いていたナオキは自然と笑みを浮かべる。
「アイチ君ー、今日は和食にしましょうかー?」
いつものようにレンと櫂が、アイチの教室に来てランチを誘いに来た。
恒例の二人の訪問に待ってましたと、女子達は一斉に二人をアイドルを見るかのような熱い視線で見つめているが
いつもなら、席に座って待ってくれているアイチがいない。
「あれ、アイチ君は?」
出入口のドアから一番近い席に、幸運にも座っている女子にレンが話かけると、思わぬ幸運に慌てながら。
「同じクラスの子達とっ・・何処かに行ったみたいですっ・・!」
きっとナオキとシンゴだろう、「そうですか、もう少し探していなかったら仕方がないです。櫂で我慢します」と
へそ曲げた子供のようなかわいらしい顔で、教室を後にする。
アイチとシンゴ、そしてナオキはファーストフードのバーガー店に来ていた。
カードを集めるてっとり早い方法があるとの、シンゴの提案を聞くために。
「これです!!」
パソコンの画面に映るのは、この宮地で主催される宮地生徒限定のヴァンガード武闘大会。
参加人数は3人、生徒限定ということで現役ヴァンガードは出場できない上に賞金のカードはというと。
「なるかみのG3カード、ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオンです、超レアユニットカードですよ」
銀色の翼に赤いドラゴン、少しオーバーロードに似ているが同じ竜だからなのだろうが
光るカードにナオキの目も同じくらいに輝いている。
「初心者様には、使いこなせるかどうか不安ですが、将来のことを考えた方がいいかと」
「ほぅ・・、本当は同じ優勝賞品のこのカード目当てなんじゃねーだろうな!!」
画面をスクロールさせると、ヴァーミリオンの他に金棒の忍鬼 アラハバキという鬼の姿をした
強そうなむらくものレアカードが映っている。
図星だったのか、ギクリとシンゴが冷や汗を流す。
これらのカードの他にも賞金もたんまり出るとか、問題は優勝できるかどうか。
「せっ・・生徒の中には現役のヴァンガードに匹敵する生徒もいますから、強敵です!!
僕はともかく、初心者様のフォローは僕一人では無理です。
そこで先導君にも、選手として参加していただきたいのです!!」
「僕が!」
横でナオキが初心者扱いされて、怒っているがアイチの耳には入っていない。
最初は断ろうとかとも考えたがこれはチャンスかもしれない。
ロイヤルパラディンほど、ゴールドパラディンのことはあまり知られていないし。
ちょっと珍しい聞いたことのないクランとして、誤魔化せる。
カードは実在するわけだし、アイチが光の先導者だとバレなればいいだけ。
実戦慣れするのには丁度いい。
それに、ナオキにも昔勇気づけられて、ずっとお礼も言いたかったし、なるかみはナオキにピッタリのユニットだ。
最初アイチもなるかみを、ナオキに進め、それの言葉がきっかけでなるかみを選んだ。
「よっしゃー、これで三人揃ったぜーー!!さっそく今日から特訓だ!」
「まずは初心者様の集中特訓と、知識詰めからですね」
「俺を集中攻撃かよ!」
今まで授業をまじめに受けてこなかったツケだと、店内で喧嘩を初めている。
シンゴが得意の情報能力を駆使して、空いている模擬練習場を使って訓練することに。
コホンっと、咳をするとカードを取り出す。
「では、まず僕から・・忍獣ミリオンラットにライド!」
灰色の煙の後、ねずみの耳の生えた忍者服姿に、アイチは「凄い」と反応するがナオキは指差して大笑い。
「ケモノ耳っ・・ぶはははは!!」
「笑うなんて許さないです!・・というかライドもできない初心者様に言うセリフではないですね」
バカにしたように耳が上下に揺れる、噛みつきそうな勢いで言い合いをする二人はまるで猫とネズミだ。
アイチが間に入り、仲裁に入る。
ある意味、レンと櫂みたいな本気で乱闘しそうな喧嘩よりはマシだが、これでは先に進まない。
「じゃあ、次は僕だね。灼熱を纏いし戦士よ!その爆炎で、絶望の民を希望へ導け!
灼熱の獅子 ブロンドエイゼルにライド!」
黄金の光に包まれ、現れたのは青い髪が黄金に輝くアイチ、腹出しは変化なしの男子用エイゼル服だ。
数秒前まで喧嘩していた二人がアイチを見る。
言葉がでないほど神々しく騎士にしては露出度が多いのでやっぱりまだ恥ずかしい。
「すげーー、カッコイイじゃん!」
「先導君、やはり僕の睨んだ通りなかなかの実力、君がいれば優勝間違いなしです」
これでアラハバキ様は僕のものだと、やはり自分のためでもあったのだと、アイチは確信する。
今まで光定やレンと言った最強の部類に属するヴァンガードと戦ってきたので
宮路にそれほどのヴァンガードがいれば、話は別なのだけど、優勝候補であるのは違いない。
二人がライドし、訓練場で二人でナオキの指導をする。
その様子を影から、アサカが彼らの様子を写メをして、レンに報告をしていた。
結局、一日ナオキの指導だけで終わったと部屋に戻るなり。
レンに抱きつかれた、しかも嘘泣きをして。
「酷いです、アイチ君!!僕とのランチのお誘いを断っただけでなくできたばかりの友達を選ぶなんて」
どさくさに混じって、アイチの背中に手をまわして、首元に顔を摺り寄せている。
それには慌て始めるアイチ、超鈍感なアイチでもそんなことをすれば、頬が赤くなってしまう。
「いい加減にしろ」
四つ角マークを額にはりつけた櫂に、引き剥がされるが櫂もレンと半分だけ同じ意見だ。
宮地にきた目的を忘れているよりも形だけの婚約者だが
幼馴染よりも短期間しか共にいなかったナオキを選んだことが許せない。
「どういうつもりだ、アイチ」
「あのねっ・・確かに武闘大会に出ている場合じゃないのはわかってはいるけど
僕もゴールドパラディンに早く慣れておきたいし・・
ナオキ君、昔助けてもらったこともあるのは本当で、なんか応援してあげたくて」
最後のセリフ辺りで、アイチは自分の顔を鏡で見るべきであった。
まるで大切な人のために尽くしたい乙女のような顔に、櫂とレンは苛立つものを感じる。
「それでね、ナオキ君凄いんだよ。初心者って言っていたけど、もうG2のカードをコールできて・・」
その日はナオキのことばかりを話すアイチに、二人の中ではナオキの位置がブラックリストに自動登録されたのは
本人以外知ることはない。