「三和君にお願いがあるの」
恥ずかしそうにしながら、二人っきりになりたいと呼びた三和の心は複雑だ。
高級な食材を使ったブッフェ料理も最後の晩餐ではないかと、二強に睨まれながら考えていた、心と背中が痛い。

アイチは三和を人のこない場所へと呼び出した。
その理由は。


「大いなる銀狼 ガルモールにライド!」
水色のマントを持ち、白と金色の鎧を持つ騎士服に変化・・・するが、やはり露出が多い。
ロイヤルパラディンは女性服とはいえ、露出度は低くかったか、逆にゴールドパラディンは肌の露出が多い。

アイチは本人が思っているほど、スタイルは悪くない。
というかアサカとミサキの発育が良すぎるのだ、アイチもそれなり良い身体している・・・と言ったら櫂に燃やされるだろう。

「せっかくだから、戦ってほしいの。こんなこと頼めるの三和君だけだから」
「まぁ・・・言われてみれば」
同じ三強の二人が近くにいると言っても、櫂がアイチの訓練とはいえ戦うはずないし
レンもアイチに好意を抱いているし、適当な理由をつけてやりたがらないし、テツとアサカには頼みづらそうだ。

「わかった、俺でよかったら相手になるぜ」
パーサーク・ドラゴンをコールし、まるで神話に出てくるかのような二頭の頭を持つ竜が現れ
自身もドーントレスドライブ・ドラゴンにライドし、三和の周りには炎が舞う。
三つに分かれた緑色の光を宿らせる剣相手に、櫂以外の相手で本気を出したのは久しぶりだった。

アイチも、最近は迷ってばかりで、三和相手なら遠慮はいらないと、笑みすらも浮かべて戦っている。




暫くして、三和はアイチに缶ジュースを奢ってくれた。
ゴールドパラディンはやはり、まだ慣れていないのかと今日はそれほど動いていないのに疲れたような大あくびをする。

「そうか、ロイヤルパラディンの回復がまだ・・」
「この前、アクアフォースを探している人達と戦って僕、わかったんだ。
ゴールドパラディンも使いこなせるようになりたいって」

櫂達に頼るような形ではダメだと、胸の決意を三和に打ち明ける。
武闘大会に参加するのも、もっとゴールドパラディンに慣れるためだと、三和には無理をしているようにも感じた。

「あんな自分を追い詰めるなって、あの二人は確かに凄いけど・・性格に問題がある!」
なんせ『緋血の闇帝王』様と『暴凶悪の竜皇帝』様であらせられるのだ、と聞いて、笑ってしまった。

「櫂君、好きな人いるのかな?」
誤嚥しそうになるを三和は、胸を叩くことで回避。
突然何を鈍感なことを言い出すのかと思えば、アイチの場合、正面から素直に言うしか気持ちが届かないのに
それを一番苦手で、愛情表現が複雑解読不可で、言葉も足りないあの男には難しいものだから
アイチが妙な誤解をして、ようやく婚約まで進んだのに、櫂自身の行動が原因で振り出しに戻してしまう。

(伏兵現れるわ、露出の高い服だわで・・・素直になるタイミングがねーわな)
だからさっさと告白してしまえばいいのにと、本来は恋敵のはずなのに自分でも何考えているのだが。
きっと櫂もアイチも両想いのはずなのに、どうして交わることができないのだろうか、不思議だ?

「あいつが好きでもない女の子と婚約なんてしないって、アイチは三強になってもネガティブは健在だな」
久しぶりにアイチの頭を撫でていると、三和の携帯の着信音が鳴り響く。
井崎からの着信で、通話ボタンを押すと後ろから「勝負だー!」という森川とナオキの声が大音量で聞こえてきた。

『おい、三和!!帰ってきてくれ。酒が入って俺一人じゃ手に負えん』
レンがジュースとか言って持って来た飲み物が酒で、全員がそれを飲んでミサキもアサカは互いに
頬を紅くして熟睡、エミは二人に付き添っているわ。
ガキんちょ三人組も、べろんべろんに酔い、井崎は耐性があったが森川・ナオキは完全酔っていて
リアルファイトをし始めて、誰も止められる人間がおらず
元凶のレンもテツと一緒に何処か行ってしまうし、櫂も当然いない。

「わかった、俺が行くまで踏ん張れ―。わりぃ、先に帰るけどアイチも行くか?」
「僕は、もう少し此処にいたいな」
静かな海を眺めていたい、海風に揺れる青い髪、儚げな横顔にあんまり遅くなるなよと言って
持て余していた飲みかけの缶ジュースを行く前にもらっていく、アイチは遠くから手を振り、三和を見送る。

アイチが口をつけた缶ジュースを歩きながら、見て、小さく笑い。
三和は味わうように缶の中のジュースを飲んだ。




心地の良い潮風の中、アイチは一人海沿いの道を歩いていると、軽そうな観光客がにやけながら近づいてきた。

「君、一人?よかった俺らとこれから食べに行かない?」
ナンパ、なのだけどそれらに対し経験値の少ないアイチは

もしやカツアゲで、と固まってしまう。


戦えば強いのだけど、宮地の謎の襲撃事件のことを考えると何もできないし
暴力はやっぱりいけないと、迷っている間に男の一人が近づいてきてアイチの腰に手を回しかけたが。


「俺の連れに、何か用か?」

男達が振り返ると、ラフな格好をした櫂が立っていた。
戦場の兵士達も腰抜かしそうな威圧感付きで、常人にはひとたまりもない慌てて逃げていく。

「櫂君・・」
「一人で出歩くな、何かあったらどうするんだ」

ごめんと申し訳なさそうに謝るアイチ、櫂は別に落ち込ませたくなかった。
ただアイチは金と力目当てに拉致を考える人間も、世の中にはやはりいて、一人になりたい時だって櫂にもあるが
できれば、誰かの・・櫂の傍にいてほしかった。

「・・・・・行くぞ」
自然に櫂は、アイチに手を差し伸べる。
最初はアイチもそれには驚いたが、恐る恐る手を伸ばして、自分の何倍もある大きな手を掴んだ。


恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしながら引かれるように前を櫂が、後ろをアイチが歩いていく。
今のアイチは櫂の隣を歩きく勇気はなかった、格好も膝上な短パンにパーカーと男のようだったし
ヴァンガードとしての力も、ロイヤルパラディン不在ではさらに下降し、頭の中でそんなことを考えていると

いつの間にか、引かれるがまま歩いていたら海岸の崖に来ていた。

「そろそろだな」
腕時計を確認すると、空がピンクの色に光った。
花火が上がる時間だったのだと、リアルファイトゴッコをしていた森川達も動きも止まる。

「わぁっ・・・」
小さい頃、櫂が打ち上げ花火が独り占めできる場所で三人で屋台で買ったお菓子を食べながら見ていたのを思い出した。
言動も不器用な櫂は、アイチを励ます言葉を出せず、こんな形でしか慰めることしかできない。
生まれてきてから共に時間を過ごしたロイヤルパラディンを失いかけ、戸惑うまま、戦うためには別のクランを使うことになって

最初、クレイアカデミーに戻すことも考えていたが、唯一アクアフォースの声を聞くことができること判明しそれも叶わない。

楽しそうに打ち上がる花火を共に見上げる、二人はいつの間にか横に並んでいて
まるで離すまいとしっかりと互いの手を掴んでいた。








武闘大会のエントリーがまだ終わってなかったと、提出を任されたナオキはシンゴにたんまり怒られていた。
宥めながら、必要書類に名前とクランを描いていくと。

「チーム名・・・どうする?」
「「チーム名?」」
ナオキとシンゴの声が綺麗な重なる、アイチ達とは違い個室のナオキの部屋でジュースをテーブルに置いて
よく考えれば、チーム名が決まってないことに今更気付いた。

「そうですね、では小茂井軍団と」
「ぜってー嫌だね!もっとカッコイイ強そうなチーム名にしようぜ!!」
思い当たる名前を口にするが、どれもシンゴに却下され、このままチーム名が決まらないかと考えていたが
ふと、アイチはクァドリ・フォリオのことを思い出した、国章には幸運の四つ葉のクローバーが描かれているが
今ここにいるのは、三人・・・・三つ葉の。

「チームクローバーってどうかな?四つ葉じゃないけど、当たり前にあるって意味で」
でもいつか、四つ葉のクローバーになろうってかっこいい名前ではないが、素敵な名前に全員の意見が一致。

「じゃあ、チームクローバー!頑張ろう!」
「「おう!!」」
三人の心は優勝に向けて、一つとなり、アイチは部屋に慣れない手つきでチームの印である腕章作りをしている。
アイチは青、シンゴは黄緑、ナオキは赤のハートの葉を模ったワッペを一生懸命作っている後姿を
気にならなさそうな目でレンが、ポテチを食べながら薄めで見ている、別に本来の目的を忘れてはいないが
最近、ナオキ達とばかり行動するのにレンは内心焼きもちやいていた。

櫂もずっと、櫂の後ろ姿を振り向けばついていくアイチが、自分の足で別の道を進んで、離れていくような気がして

誰にも言えないが、恐かった・・・だから。




昼間の空には、花火が打ち上げられ、武闘大会の開会式の合図だ。
待ち合わせ場所でアイチは一人で待っていると最初にきたのは、目の下が真っ黒なナオキだった。

「よぉ・・・アイチ・・遅れて悪かったな、寝坊した」
「まだ時間に余裕があるからいいけど・・・眠そうだね」
興奮して眠れなかったと、笑いながら話が逆に怖い、眠気覚ましにコーヒーでも買うかと会話しているとシンゴも登場。

「フフ、この僕よりも早く来たことを褒めて差し上げましょう」
いつもの口調なのはいいが、彼もまた目の下がナオキよりも暗く、この一週間まともに眠れていないかと。

「ハハハッ!!お前狸かよ!!」
「笑うなです!人のこといえますか!!」

こんな調子で大丈夫なのかと、椅子に腰かけて開会式を幕開けしたが、左右の二人はアイチに体を預けて眠ってしまった。

それを遠目でみていたレンは、悔しそうにハンカチを噛みしめる。
「アイチ君の肩に寄りかかるなんて!!僕は膝枕してもらいますっ!」
「やめろ、今近づけないだろうが」
冷ややかだが、内心アイチに男が触れることを快く思わない狭い心の櫂は二人を睨むと
寄りかかっていた二人が殺気を感じたのか目が覚め、辺りを見渡し悪寒の正体を探していた。

「・・どうしたの?」
「いや・・なんか、凄まじい殺気を感じて、おおっ・・丁度開会式も終わったかーー」
背伸びを思いっきりして、よく眠れたと話す。
シンゴもこれ万全の状態で戦えますと、目の下のクマが消え、眠れた様子。

彼らは聞いていなかったが、内藤の開会式の挨拶は聞いてて不快だった。
長すぎて全てセリフを覚えていないが要するに、精々頑張れ的な、ナオキが寝ててよかったと不謹慎だが寝不足に感謝。

武闘大会は勝ち抜き戦で、先に二勝した方の勝ちだ。

「いくぜ、ぶちかませ!!俺の分身!魔竜戦鬼カルラ!!」
カードをコールし、巨大な真ん中の割れた砲を二つ持つドラゴンに、対戦相手はビビりまくって
ナオキのストレート勝ち、そしてアイチもゴールドパラディンという珍しいクランで戦っていると。

「もしや、先導君も『白青の姫騎士王』様のファンではないのがですか?」
無事一勝し、トーナメントを上へと進めるが、別ブロックの見物のために歩いている最中のことだった。
ナオキは勝ったことに興奮して、一人ではしゃいでいる。

「やけに『白青の姫騎士王』様に詳しいですし・・これは確かな情報なのですが、青い髪に青い目をしていると
もしやと思っていたのですか・・・・!!」

まずいバレたかと、ドキッとしたが。

「相当なマニアなのですね、僕も知らない情報を知っているところからして・・・僕以上に」
今度情報ルートの交換しませんかとか言われて、本人なんだからとは口が裂けても言えず
「いつかね」と言いながら歩いていると、別ブロックの大会会場がやけに静まり返っていた。

「なんだよ、もう終わったのか?」
せっかく来たのにと残念そうにしているが、まだ大会は続いていたが
優勝候補のチームが圧倒的な力の前に惨敗し、参加した彼らに審判さえも固まっていた。

「しょっ・・・勝者、トシキ・櫂選手!!」
「えええーーーー!!」

思わず鉄の柵に体を乗り出すと、闘技場のリングには櫂が立っていた。
控え選手の席には、にこやかに笑うレン姿、アイチに手を振っているが・・・。

「なっ・・なんで、あの二人が」
二強の二人が、大会優勝者候補ぐらい簡単に倒すのは当然だし、賞金が目当てでもレアなG3のカードでもさそうだし
まさか二人して、ナオキとシンゴに嫉妬にしたなど、アイチに夢にも思うまい。



「チームFFって・・なんですかーーーー!!」
その上では三人の少年が一人で悩んでいるアイチを見下ろしている。
そのうちの二人の瞳は澱んでいた。










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