「くらえっ!!」
はむすけをカードに戻すほどのダメージを与えるアイチ。
しかし、相手の少年は動揺一つどころか、表情を変えずにいる。

『気を付けて・・くるよ!』
「えっ・・・!!」
アイチの中に、タクトの声が何処からか聞こえた。
一瞬PSYクオリアが反応する、それはレンも僅かに反応する。

「・・・・今のは?アイチ君」
リングの中央で敵の攻撃と思われる大きな、爆発が起き、それは観戦席にいた全員の視界を完全に奪う。
皆が、目を腕で庇うが櫂とレンだけとリングを見据えていた。


まるで邪魔が入らないように、見られないようにするためのカモフラージュのような。

「はじめまして、光の先導者、アイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリ。僕はクリストファー・ロウ」
「・・やっぱり僕のことを知って・・・まさか!」

何処かで見たことのあるような、感覚の意味をようやく理解した。
クレイアカデミーに襲撃をかけた三人のうちの一人の気配に似ている。

「今頃気付いたんだね。鈍いお姉さんだ・・だからロイヤルパラディンも失うんだよ」
カードを構えるアイチだが、視界も効かない今、援護も期待できない。
自分一人で戦うしかないと審判の男はいたが、立ったまま目は何処か遠くを見ているかのような
これもクリストファーの力の一つなのだろうか。

「双筆の騎士 ポラリスをコール」
「お願い、サグラモール!」
アイチと同じくらいの少年が現れ、白クマに似た騎士の爪をどうにか受け止める。
そしてアイチも、ブロンドエイゼルにライドするし、クリストファーと対峙するが彼の背後から黒い影が現れ始めた。

「あれはっ・・」
それはアイチに手を伸ばして、襲い掛かってきて。
大きな剣となり、アイチの胸を引き刺すと、まるで本当に突き刺されたような痛みが胸に走り、倒れる。

そこで土煙が晴れ、クリストファーとライドは解除され倒れているアイチ。
「先導君!」というシンゴの声で、ナオキは目を覚まして起き上がった。

「しょっ・・・勝者クリストファー・ロウ!」
未だに意識がクリアになっていない審判は操られたように、クリストファーの勝利と判定。
勝敗を宣言したところで、審判は我に返り自分の言った言葉に疑問を感じていた。

「今のアリかよ・・」
誰かが呟いた、審判と戦っている二人しか知らない戦い。
ユニットの攻撃による土煙が原因だと、片づけるとナオキとシンゴが倒れたまま、起きないアイチに声をかけ続ける。

「おい、アイチ!!しっかりしろ!!聞こえているか!!」
「先導君、先導君!」
身体を揺らすが、真っ青に顔をしたまま起き上がらないでいると保健室に運ぼうと担ごうとするが
誰かが横から入り込んだ、それは亜麻色の髪をした、いつの間にかリングに上がった櫂だった。

「お前では、無理だ」
さっきまで気絶していて、軽いとはいえ、アイチを運ぶのは無理で、シンゴの勝敗で次に進めるか決まる。
横抱きにして、羨ましいという女性の声が聞こえる中、救護室へと運ばれるアイチ。

「何なんだよ、あれ・・・」
対して話しもした記憶がないのに、殺気混じりで睨まれるなんて身に覚えがない。
ナオキが見守る中、シンゴとアリの戦いが始める。







深い、深い闇の中、アイチの身体は真下へと落ちていた。
指一つも動かすことのできない空間。

考えもうまくまとまらない。
このまま、落ちていくだけなのか、ポケットの中のカードが光る。


〈マイ・ヴァンガード・・・・〉


「・・・ブラスター・ブレード?」
その声に、全ての感覚を取り戻し、いつものようにソウルセイバーの翼で上昇する。
闇の中、光る翼を広げさせて天井高く、進む先には光が。

アイチはその光に向かって手を伸ばす。
それは握ったことのあるような、とても最近に・・・・そうだ、あれは。



目を開けると、心配そうな顔でアイチを見下ろすレンとシンゴにナオキ。
手を握ってくれていたのは櫂だった。

「あっ・・ごめんなさい、櫂君!」
パッと手を離すと、名残惜しそうだったのは櫂の方だった。
目を覚ましたばかりで刺激の強すぎて、身体がもたないが、元気そうな姿に皆ホッとするが・・・。

「すいません、僕・・」
シンゴが申し訳なさそうに謝罪してきた、シンゴは負けたのだ。
チームクローバーは敗退、優勝を逃してしまったが負けたのはアイチも同じ。

「いえ、僕のほうこそ・・」
「でもアイチ君が負けるなんて、彼らのクランは特に特別ではなかったのですが」
不思議がるレンに、アイチは何か言いだけな顔をしているがナオキ達がいるのでいう事ができない。
それを察すると櫂は二人の背中を突然押し出し始めた。

「何するんだよ!」
「あいつは疲れている、休ませろ」
「だったらお前も・・・!!」
外に出るべきだろうという前に、ナオキ達は部屋を追い出されてしまった。

しかも櫂の力は強くて、足を踏ん張ってみたがダメだった。
ヴァンガードとしてもじゃなくて生身として強いのだと悔しいが認めるしかない。

「仕方ねぇ・・アイチの好きな菓子でも買いに行くか」
「ですねー、売店よりも少し離れたところの店の方が品が揃ってますから行きましょうか」
などと会話しながら、歩いていく。





アイチはファーストフード店で会った少年が対戦したチームの中にいたこと。
砂煙の中であったことの全てを説明するが、医師はアイチが気絶しただけと診察した結果も確かに聞いている。

貫かれたという腹には、傷一つない。
感覚は確かにしたが、血が流れた感触はしなかったような気がする。

「あの黒い闇は・・一体・・・」
タクトのことは、まだ櫂達に言っていない。
彼との会話は夢か現実か、はっきりしない部分が多すぎる。

クリストファーと戦った時にも聞こえたが、気のせいか。

「俺達も勝ち進んでいる、決勝で奴らと当たるだろう。その時にもでも問い詰めるさ、今、アイチに必要なのは休息だ」
ぼすっと頭を軽く押されただけで、ベットへ戻される。
リングの上で感覚だけで気を失うなんて、情けなさすぎてまた泣きそうだ。

「彼らは僕達に任せて、アイチ君は休んでてください。
決勝は夕方頃にやるそうですからまだ時間はありますよ」

安心させるようにレンは、笑いながら部屋の外へと出ていく。
念のためにテツに扉の前で警護しておくから、用があればいつでも呼んでくださいと言って。

外にはナオキ達がおらず、扉を閉めると同時に三強と恐れられるに相応しいオーラを放つ。
目を細め、妖しく笑う姿はアイチと会話していたのが同一人物か疑ってしまうほどだ。

櫂も方も、キョウに怪我を負わされた時以上の怒りの感情が漏れ出していた。

「言っときますけど、負けたら許しませんから」
「それは、こっちのセリフだ」

通路を進み、その後の決勝を目指す進むが相手には運悪く、一瞬にして決着をつけられた。
会場にほとんどいることのない、チームジニアスだがチームFFの時にも偵察するかのように影から観戦している。

さらに、レオンも特別席で、その様子を優雅に観賞している。


「そろそろ時間かな」
興奮しているのか、あまり寝た記憶がないが櫂達とクリストファー達が戦う時間になり
ベット脇でお菓子を食べていたが、時刻を確認し、お菓子袋を片づける。

「でも、外にはあのおっさんがいるだろう・・雀ヶ森の手下だろうぜ」
確かに手下かもしれないが、櫂とほぼ同じ歳なのにおっさんは酷い。
ドアがノックし、開くとおっさん・・ではなくテツが登場。

誰も通すなと言われたがおやつ持参のナオキ達を内緒で通してくれたり
今回もアイチのために、車いすまで持ってきてくれた。

生で観戦したいのだろうというアイチの意志を尊重して。

「これで移動は楽だろう、先導も見ておいた方がいいだろう」
「ありがとうございますっ!」
正直、まだ歩くのは辛かったが生で決勝は見ておきたかったと
ナオキに軽く支えられて車椅子へ乗り移るとテツが車いすを押して、会場へ。

会場は超満員で、後ろの隙間から櫂達を覗く。
決勝ということで大型のヴァンガード模擬戦闘技場を使用、緊張することもなく初戦はレンVSアリだが
呼吸一つ乱れず、ダークイレギュラーズのデッキで倒してしまう。

「あとで君には聞きたいことがありますから、覚悟しておいてくださいね」
PSYクオリアが発動するかのように、目が輝き、アリは「こわっ・・!!」と怯える。

「僕、何もしてないのに、あのお姉さんに悪いことしたのは本当だけど・・」
あそこまでやる必要ないんじゃないかと、彼だって思うが、闇に囚われた二人を止めるのアリでは無理だった。
悔しいけど、他人に助けてもらうしかない。
そのためだけに、今もこうして傍にいる。

「じゃあ、次は僕だ」
クリストファーが立ち上がると、すでにリングには櫂が立っている。
彼もレンと同じく、相当怒っている様子だがクリストファーは余裕だった。

「そんなに怒ってどうしたんですか、トシキ・櫂・ドラゴンエンパイヤ皇帝殿」
最後の部分は声に出さないが、やはり櫂の正体もすでに見破られている。
アイチのことを調べ済みなら当然、周辺の人間のこともと考えるのが普通だろう。

「まさか、彼女のことを?虚無の断片一つで気を失うなんて・・本当に三強?」
小馬鹿にしたような発言に、櫂は目を釣り上げて、開始同時に櫂の立っていた真下のリングに巨大な亀裂が入り
同じリングにいた審判は恐怖のあまり、仕事を放棄してリングから降りる。

「フレジングフレア・ドラゴンにライド」
炎を渦巻く機関銃と剣を手にすると、クリストファーのコールしたユニットを銃で一瞬してカードへと戻す。
それでもリング外には、弾は飛んでくるとこなく、怒ってはいたが外野へ巻沿いにはしない。

「次は、お前だ」
機関銃が消えると、剣だけを構える。
するとクリストファーは、カードを取り出すとコンパス・ライオンをコールするか虚無の力のせいか
巨大と化し、リングを破壊して、観客は悲鳴を上げて逃げ出していく。

櫂も後ろへとジャンプするが、逃げることはない。
まだ決着がついていないからだ。

レンも同じく、こんな状況にも関わらず、笑みを絶やさない。

通路近くにいたアイチ達は、出入口へ一気に人が押し寄せたせいで車いすごと倒れる。

「あっ!!」
「アイチ!」
ナオキはすぐに駆け寄り、車いすでは移動はできないとアイチを背負う。
テツ達と合流しようにも、人の波が邪魔をして互いに顔しか確認できない。

「お前達は別の通路から避難しろ!」
「わかった、気をつけろよーー!」
大声を出して、それぞれ別の避難口から進んでいく。
生徒会長特別仕様の観戦室にした内藤達も、警備の兵士達に守られながら、避難した。

「何が起こっている?」
これがアクアフォースに関係していることなど、予想もしていないだろう。
そして自国のヴァンガードでは歯が立たず、櫂達が戦っているなど。

ナオキに背負われて、出口を探すが暴れるコンパス・ライオンに止められるはずもないヴァンガードを向かわせて
一方的にやられているのを見て、観客は大パニックになって会場は大変なことに。

地上からでは、アイチを抱えながらの上に通路には瓦礫が落ちていたりして通れずに万が一も考えライドしようとする。
「こうなったら、サンダーストーム ドラグーンにライド・・・ってカード・・・そうだ!!」
ポケットをいくら探しても、カードがない!!よく考えたらシンゴに預けたんだ。

「あーーー!!」
逃げている途中、シンゴもそのことを思い出した。隣にいたテツはシンゴのカードケースを見て驚く。
手持ちのカードを調整しようと、医務室でナオキよりも知識のあるシンゴに渡してそれっきり返さなかった。

「うわっ!!」
生徒会役員にぶつかり、アイチを自身の背中で潰さないように足を踏ん張る。
中身が飛び散るが、役員は命の方が大切だと逃げ出していく。

「あいつー、謝りもしないで・・」
「ナオキ君!」
近くに虚無の気配がする、真冬にいるかのようなナオキもアイチほどではないが黒い影から現れるユニット達に
後ろにいるアイチを庇うように前に出るが、ナオキには今、手持ちのカードが一枚もない。

「くっそーーー!!」
真っ黒に変色し、紅い目をするバターリング・ミノタウロスに
封竜シャンプレーはゆっくり、アイチ達を囲むように集まっていく。

「こうなったら・・」
戦えるほど回復していない身体で、アイチがカードを構える。
あとで櫂にこっぴどく怒られてもいいから、ナオキを守らなければ。

しかし、ナオキの足元に落ちている一枚のカードがアイチの目に入る。

「ナオキ君、足元!」
「ん・・・おおっ、カードだ!!しかもなるかみ・・・・って!!」
これで戦えると一瞬喜んだが、名前を見て驚いた。




「優勝の品の・・・G3・・なるかみ・・・ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン!!」


ドラゴニック・オーバーロードと対等の力を秘めたカード。

黙示録の雷は太古の昔、大陸を分裂させるほどだったという

あまりの力にと高名なヴァンガードによって封じられたとか。


そんな伝説級のカードが、ナオキの手に。
呼応するように、アイチの目の錯覚だろうか淡く輝いていた。


















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