不思議な空間に、アイチは立っていた。
何故か、マジェスティ・ロードブラスターにライドした姿で青い海と空が繋がっているような景色。

「此処・・・、何処なの?」

辺りには何もない、青ばかりが広がっていると遠くの方から黒い雲が広がり始めていた。
離れているのに気持ちの悪い、近づきたくない、無意識に身体か後ろへと下がる。



「あれは虚無だよ、世界を飲み込む・・何処からやってきたかは誰にもわからないけど」


白い髪をした小さな少年が、アイチのすぐ後ろにいた。
額に翡翠色に近い印が印象に強く残るような、にっこりと笑いながらアイチに話しかける。

「綺麗なお姉さんだね。光の先導者にはふさわしい・・でも驚いた・・。
どの時代も光の先導者は最後、闇の先導者を悪として倒してきたのに

君は闇を受け入れ、それすらも力にした・・」

「・・・・?」
何が言いたいのか、わからない。
話している間に黒い雲は、近づいてきている。



「これから、いろいろと大変だけど・・・・・・・・頑張ってね」
「えっ・・・!」






黒い色の突風が、アイチの視界を奪う。
思わず目を瞑り、目を開けるとベットの上だった。

「・・・・夢?」
雀が朝の挨拶をしているかのように、鳴いている早朝。
目が覚めたので先に身支度をしていると、エミに物凄く驚かれた。

「てめぇら、アイチお姉さんと話したくば俺を倒していけ!!」
カードを手にし、威嚇をするカムイに遠巻きで男子達は悔しそうに下唇を噛んでいる。
カムイの実力はこの場にいるアイチに求婚する男では、歯が立たないからだった。

「これからどうしよう・・・」
いつまでもカムイやミサキに守ってもらうわけにもいかないし、選択している科目が違うとアイチ一人になってしまう。
これならまだ、櫂の手の届くクァドリ・フォリオならいくらかマシだが、こんな事態になっていると知れば
今度こそ強制送還決定だと、頭を抱えているアイチ。

ランチタイムは戦場となり、「アイチお姉さんに話しかけたくば、俺を倒していけーー!!」と
熱血漫画の主人公のように戦うカムイ。

その隣で、アイチはエミ達と食事をしている。

だが、カムイの防壁を突破し、アイチに指輪を突きつけた。

「はひっ!!」
反射的に後ろへ下がるアイチ。

「さぁっ・・私の花嫁に・・・ゲフッ!!」
誰か男の脳天に、踵落しを食らわした。
カッコ悪く倒れる男の後ろから、現れたのは・・。





「よっ、アイチーーーモテ期に突入したって本当か?」




「三和君!」
ぎゅむっと、あえて三和は男を踏んでアイチの元へ。
服装は正装であり、この場にいる全員に伝えるほどの音量で

昨日など比べ物にならないほどのクルティカルをアイチに炸裂する。

「おい、お前らー!!此処にいるアイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリは
本国の皇帝、トシキ・櫂・ドラゴンエンパイヤと正式に婚約した!!

文句があるなら、うちの暴君皇帝を倒してからにしてほしいな」

「かっ・・・・・櫂君とっ・・・婚約ーーーーー!!」
それに誰よりも驚いたのは、アイチだった。
全員が開いた口が塞がらない状況で、三和のみにんまりと笑っている。

三強の櫂相手に、太刀打ちなどできないとアイチの周囲は静かになった。
エミの弁当のおかずをつまみながら、事の詳細を説明し始める。

「まっ・・櫂のとこにも自分の娘をって、アイチほどじゃないけど見合いの話とか来て・・大変でさぁ・・」
心の中では、もう櫂はアイチ以外選ぶことはないのだろうと言わずに。
そのアイチはというと、櫂と婚約と聞いて、脳みそがオーバーヒートして三和の言葉が大半頭に入っていない。

「それじゃあ、レン・NAL・雀ヶ森のとこにも」
同じ力を持つレンにとこにも、見合いの写真が多量に送りつけてられることなどミサキは容易に想像がつく。
怒り狂うアサカも、すんなりとイメージできる。

「だな、自分の姫君をって・・国の再建とかでそれどころじゃないって断っているらしいけど」
レンが帝王になる前から、王を神の様に崇めていた独裁国家を変えようとテツやアサカと共に
天性のカリスマで頑張っていると、ゴウキ達から聞いていたが本当に見合いどころではないらしい。

「んで、昨日の夜中にさー、突然雀ヶ森から極秘回線から連絡が来て」




いつもなら寝てる時間だが、先の戦争などで溜まっていた公務を片づけていたが、夜中にも関わらず
爽やかなレンの笑顔に、眉間に深く皺が寄る。

『元気ですかー、櫂』
「お前の顔を見た瞬間に、あらゆる気力が失せた」
むっすとした顔で、頬に手を当てて画面向こうのレンに答えると「つれないですねぇ」と深くため息された。
通常の回線での連絡でないところをみると、重要な要件と予想できる。

『実はこれ、見てくださいよ』
テツの身長ほどに積まれた見合い写真の山が五つ、レンの執務室を占領していた。
性格はともかくとして、外見と能力だけなら異性を十分すぎるほど引きつつけるレンに好意を寄せる女性は多い。

『もう、困っちゃってーー、僕は今結婚する気はないのですが』
こんなものが毎日、届くものだからアサカが物凄く怒って、大変ですと困り顔。
世のモテない男どもをこの瞬間、レンは敵に回した。

「そんなことのために、連絡してきたのか?」
『まさか、櫂のところも・・まぁ・・僕ほどじゃないですけど、届いているんでしょ?』
予想通り、PSYクオリアは持っていないが先導者に匹敵する実力にして端整な顔立ちに今まで表に出なかったが
今回のことで、顔が知られて見合いを三和が片っ端から断っている。

「・・・アイチか」
アイチは言わなかったが、どこぞのアニメみたいにモテ期突入して
歩けば告白され、男性に追いかけまわされているとか。

それを聞いて、眉間にまた深く皺が寄る。

『というわけですね、僕とアイチ君が婚約しようと思うのですよ。
虫よけも兼ねて、PSYクオリアカップル誕生です』
「お前とは決着をつける必要があるな」

ジ・エンドのカードを構える櫂、画面に映し出されているだけなのに顔がマジで本気だ。
何を言い出すかと思えば、真の敵はやはりお前だと櫂は改めて思う。

『絶対そう言うと思ってましたよ、僕がアイチ君を守りたいのですが
国のことで忙しくて・・そこでアイチ君と婚約したらどうですか?』

にっこりと、ドヤ顔でレンは櫂とアイチが婚約しろと言い出した。
一瞬、思考が停止したがすぐに櫂は自分を取り戻す。

「なんで、俺がアイチと・・・」
『いいんですかぁ?何処の馬の骨ともわからない男にアイチ君を取られて、アイチ君は押しに弱くて優しいですから
コロッと騙されて、櫂の手の届かないところに・・・・』

ガタンッと大きな音を立てて、椅子から立ち上がる。
喰いついたとにんまりと笑うレン、鳥籠からようやくアイチを解放したがそれでもやはり心配だ。

婚約するだけならと、三和を使いに出し、世界へ向けて正式に婚約を発表。
鬼強の櫂を敵に回す男など、そうはいないだろう。

その日から、表立ってアイチを狙う男は現れなくなった。




ランチを終え、アイチ達ともに別れ・・三和はカードケースからカードを取り出し、帰ろうとするとミサキが話しかけてきた。

「いいの・・あんた」
「ようやく、あの櫂がアイチと婚約したんだ。二人のフォロー役が少し楽になったってもんだぜ」
笑顔で答える三和、それが仮面か心の底からなのかわからない。
三和はアイチのことを好き・・、愛しているのに、伝える気は一生ないと言った。

心の底から、誰かを好きなったことのないミサキには、三和の心がわからない。
だが、人知れず想いを殺すことなど、ミサキにはできなさそうだ。

「それに、大臣達が嘆願書の束を俺に提出してきて大変なんだぞ」
美女や、賢女を櫂に見合いさせたが全てダメになって、もうアイチが妻でもいいと泣きながら妥協してきた。
ロイパラの修行も花嫁修業だと考えて目を瞑るからと、妻どころか、子供も作る様子のない櫂に
国の将来を心配した彼らに、苦笑いするしかない。

きっと、前王にも子供がおらず、そのせいで後継者戦争が再び起こるのではないかと心配しているのだろう。
見ているだけでもいいから、妻にしてほしいという女性もいたが、子供ができなければ意味がない。

櫂が傍にいること、自ら触れているの異性はアイチのみ。
恋はお預けのアイチだが、櫂と婚約と聞いて揺らいでいる。

「まったく、世話のかかる幼馴染だよ」
何時もと変わらぬ笑顔で、三和はドラゴンに乗って帰っていく。
ミサキは何も三和に言う言葉が見つからず、ただ見送るだけだった。





「ふぅ・・・−−、言うなら自分で言えよな・・」
海の上を飛行しながら、素直さが足りない男だと、これでは婚約止まりのまま終わってしまうのではとも考えていた。
アイチは自分の魅力をまったく自覚していない、そして自分は櫂にふさわしくないと勘違いしている。

「まったく、アイチもアイチだけど・・櫂も・・・・・・・・・・−−−!!」
背中に氷を入れられたような、悪寒を感じ、急ブレーキをかけた。
左右を見たすが、原因らしいものは見当たらないが嫌な予感がするがアイチは今や、三強の一人。

いざとなったらミサキやカムイ達もいるし、クレイアカデミーを狙う理由も今はない。

「・・気のせいか」
まだわずかに見える初音島に、嫌な予感は消えたわけではないがとんぼ帰りしろとのツンデレ王の命令もあり、
再び、ドラゴンに乗り、クァドリ・フォリオへと戻る。







海の底で、黒い大きな影が初音島へと向かっていることに気付くこともなく。













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