「はぁ・・」
眠いと大あくびをしながら歩いていると、アイチが「おはよう」と朝の挨拶をして、話しかける。
後ろには手で持ったカバンを背に預ける姿の櫂が、後ろの方でまるで監視するようにいた。

(よく考えみれば・・アイチの近くには、あいつ・・いつもいねーか・・・)
さりげなく近くを、目を閉じながらよく人にぶつからないな、というか人から避けているようなと後ろを振り返る。

「メールもしたけど、届いてなかったかな?」
「・・・えっ・・ああっ!!」
昨日はあれから、ベットで横になったり勉強したりして、携帯のメールをチャックしなかった。
未開封のアイチからのメール5件が、新着として入っている。

「わりぃ・・」
「いいよ、気にしてないから」
まるで花がふんわりと開くように笑うアイチ、櫂の前で携帯を動かしただけで「誰に送る気だ?」とか  
遠くのミサキ達にはテレビ電話で話しているのに、近くにいる誰かということに限定され
ナオキではないかと疑われてしまい、浴室とトイレにこっそり持ち込んでメールをこっそりと打っていた。

「櫂君、強いからナオキ君が負けても仕方がないよ。
でもナオキ君、櫂君にあそこまで本気を出させるなんて成長している証だから、これからもがんばろうね」

「アイチ・・・−−、ありがとうなっ!!」
がしっと、公衆の面前でアイチを抱きしめるナオキ。
予想外のナオキの行動に、さすがのアイチも動揺し、心臓の鼓動がリアルに聞こえる。

「何やっているんですか、初心者様は・・変態ですか?ホモですか?」
登校途中のシンゴに汚物を見るような目で見られ、抱きしめていた腕を離す。
胸に手を当てて、自分を落ち着かせようとしているアイチと、全力でただの友情からの行動だと全力で否定するナオキ。

面白くない、気にくわないというナオキに対し、殺気混じりの櫂を見てしまった生徒は「ひっ!」と悲鳴を上げて逃げていく。



夜眠れなかったので、ナオキはそのまま昼休憩もずっと爆睡していた。
レンと櫂がランチに誘いにきてくれたので、少し気にしつつも
気持ちよさそうにイビキをかいて寝るナオキを起こすこともできず気になりつつも、二人と教室を出る。

「起きるのです、もう午後の授業始まりますよ」
「午後・・・−−あーーーっ!!昼飯!!」
シンゴに声をかけられて、ようやくナオキは覚醒し、昼飯を食べ損ねたことに思い出すが
今からでは売店も閉っていて、レストランにもいけないと授業開始時刻5分前では外にもいけない。


「はい、これ」
涙目になっているナオキに、アイチが好きなそうなパンを買ってきておいた、飲み物付きで。
中にはナオキが大抵買っているパンだ、感動で潤んだ瞳でアイチを見上げる。

「まったく、先導君は甘すぎですよ。昼抜きぐらいでこの初心者様は死にませんよ」
「ありがとう、シンゴ君。ナオキ君がいつも買うパンを教えてくれて」
「そっ・・・それは内緒だと!!」
買っておいた方がいいと言い出したのも、シンゴだと恥ずかしそうに教科書で顔を隠すシンゴ。

「ありがとなっ・・お前ら!!」
二人に抱きつきナオキ、シンゴは本気で苦しがって窒息。
アイチもまさか今日二回も抱きしめられるとは思ってもいないだろうに。


テツが教室に入ってくると、クラスメイトに注目されて、じゃれあうチームクローバー。
目を閉じ、事務的な言葉で授業を始めると言うと、ナオキもテツがきたことでアイチ達を解放。

「あの馬鹿力・・・・、天国の橋を渡りかけましたよ」
息を整え、胸を押さえるシンゴと反対にあんなに男の人に抱きしめられてドキドキしたのは櫂以外始めてだと
櫂に抱きしめられた時のことを思い出して、ときめきで胸が熱くなる。

授業が始まるとナオキはの机に垂直にノートを立てて、隠れて食事している。
当然テツにはバレバレではあったが気にせず、授業を続行。

(まったく、先導にも困るが、櫂にも困ったものだ)
先導は無意識に行っている行動のため、櫂がアイチの行動を読むしかないが
今のところ、それに気付いているのはレンのみ。

(なるかみのヴァンガードとして先導は、彼を導いている)
テツもナオキのことを評価はしている、まだ青臭い一面もあるが強いヴァンガードになるだろうと。
ただ好意的にアイチが近づいたのならレンに抹殺されて・・多分必要以上に接近すれば、抹殺リストに追加される。

もしかしたら、もうされているかも。



補習を受けなければならないので、アイチとシンゴは先に帰り、ナオキのみ、他にも補習を受ける予定の数人の生徒共に
放課後、教室で欠伸を噛み殺しながら授業を受けていた。

「補習なんてかったりー・・・」
早く帰って飯食って寝ようと、静まり返った校舎出入口にいた。
下駄箱を開けると中から一枚の手紙が、ひらりっと落ちてくる。

ピンク色の可愛らしい女子が書いたとイメージできる封筒といえば。

「ラッ・・・ラブレター!!」




ナオキが補習を受けている間に、レン達と校内を探索し
他にアクアフォースがないかを調べてたがアイチは声を聞くことはなかった。

「すいません・・・何も」
「何もないということは、カードがないというだけだ。別に謝らなくてもいい」
「そうですよー。じゃあ次はこの辺りにしましょうか?」
櫂とレンは地図を広げて、アイチにも参加できないレベルの話を始める。
しゅんっとクッションを抱きしめて、二人の役に立てないことが悲しかった。

「はぁ・・」
本当にアクアフォースのユニットの声が聞こえるのか。
でも、よく考えるとあの声は、タクトに似ている気がする?
もしかしてタクトがアクアフォースのカードが何処にあるのか知っているのか?

それを言いかけた時、携帯が揺れた。
マナーモードにしていたので開くと、ナオキからのメールだった、櫂達は気付いていない。

件名が、祝☆モテ期に入ったぜ、から始まった。
モテ期にトラウマのあるアイチは、顔が青くなるが画像つきのメールでこれから告白現場に行くという内容。

(・・・ナオキ君が・・・・)
添付された画像にはラブレターの文面が、一番下に名前が書いてある。
目を細めて、知っている女子かと確認して、一気に血の気が引いた。

『シャーリーン』。
それは、レオンに仕えていた双子の従者らしい少女の一人。
同姓同名なだけかと、普通なら考えるが、今は違う。

もしかしてアイチと関わったせいで、狙われたのではと立ち上がると部屋を飛び出す。

カードケースを手にし、素早く取り出すと櫂達に説明もなしに
手すりに足をかけて、部屋のある4階を飛び出し、高く空へとジャンプした。

「アイチ君?」
レンの声は今のアイチに届いていない、ただナオキが無事な姿を見るので冷静ではいられなかった。
事情を説明すればよかったのに、もしものことを考えれば確実にその方が良いに決まっているのに
巻き込んでナオキが怪我を負ったらどうしようと、アイチの不安でいっぱいで。

「夜空を照らす希望の光、愛と勇気の力と共に!!月影の白兎 ペリノアにライド!!」
うさ耳のついた男子騎士服で現れると、空中を蹴るようにして加速する。
特殊武装オーラブースターなら、ソウルセイバーほどではないが、一気にスピードに乗れるが
身体に負担がかかりすぎて、長時間使用ができないが今は一秒でも惜しい。

「急がないと・・!!」
指定された場所は、今は使われていない大きなドーム型の模擬戦場。
それに合せるようにして周りの商業ビルも閉鎖し、普通なら絶対に近づかない人の寄りつかない場所。

そんなことで、人を呼びつける理由など一つだ。




「おーい、誰もいないのか?」
そうと知らず、ナオキは高まる胸の鼓動を教えきれずにドームの中へ。
夕方とはいえドーム内は薄暗い気味が悪い、あの時の黒い影を思い出してしまう。

「来てくれたんですね」
いつの間にか、控えめな感じの水色の髪の少女が立っていた。
こんな子が自分に好意をと、イメージしただけでふやけてしまいそうだったが。

これも大会で大活躍したからなのだろうかと、照れていると。

「来てくれて嬉しいわ」
後ろからも声が聞こえ、振り向いたら同じ顔がもう一人、髪型が微妙に違い、まるで間違いさがしをしているかのような。

「えっ・・・あれ・・双子??」
前にも後ろにも同じ顔、どうなっているかナオキには理解できない。
穏やかなそうなのと、気が強そうなのサンドイッチされながら、気の強いジリアンがナオキにもわかるように説明してくれた。

「あんた騙されたのよ。この偽ラブレターに」
「ごめんさいね。私レオン様一筋だから」
にっこりと笑みを浮かべて謝るシャーリーンに、ショックのナオキ。
敵の罠!!シンゴが聞いたら確実に馬鹿される!!しかしナオキなんぞ、呼び出して身代金でも請求するのか??

「あんたがこれ以上成長する前に、悪いけど暫く動けない程度に痛みつけさせてもらうわよ」
ジリアンはアクアフォースのカードを出す、ヴァンガードであると、ナオキもカードを取り出す。

「死にはしませんけど、アクアフォース完全復活の間だけ、ベットで横になっててくださいねー」
後ろの普通の女の子っぽい子もそうだったらしく、二人相手にナオキは大ピンチ。
聞いたこともないクラン使いに、戦っても勝てるとは限らない、ならば・・・・。

「ダッシュ!!」
「「あっ!」」

突然スポーツ選手のような、スタートダッシュで走り出したナオキ。
後ろから双子の攻撃が、ナオキのすぐ横に命中し、後ろを振りかえれば走るスピードが落ちるととにかく走り続けるが。

「くらいなさい!!」
ジリアンの放った攻撃が、ナオキめがけて放たれた。
これは確実に当たると、せめて何でもいいからライドしておけばよかったと後悔しつつ
衝撃を覚悟して歯を食いしばるが、物凄いスピードで何かが落下してきて

ナオキの前に降りるとガードしてくれた。


「あんたっ!!」
いつまで経っても衝撃がこないと、顔を上げると目を開けるとそこにはアイチがいた。

「・・・・・・アイチ?」
始めてみるうさ耳鎧の騎士服、なんか可愛い。
攻撃を切り裂くようにして手に持つ剣を横に振ると、上空にいるジリアン達を見た。

「僕の友達に何をするんですか・・!!」
「・・・!」
そこに気弱な少年はいない、強き意志と勇気を兼ね備えたヴァンガードの戦士。
嫌がらせを受けた時も、武闘大会でも、練習の相手をしてくれた時も、こんな表情はしなかった。

「どうして此処がっ・・・」
「ラブレターの最後に名前が書いてあったから」
呼び出すために書いた手紙のサイズに、シャーリーンはつい自分の名前を書いてしまったのだ。
だからアイチはこの事を察知し、駆けつけてこれて、ジリアンに力いっぱい叱られる。

「なんで、自分の名前書くの!!せめて偽名にしなさいよ!」
「えーんっ、ごめんなさい」
ナオキ一人なら、簡単に大怪我負わすくらいできるがアイチも加わると逆に倒される可能性が高い。

「ナオキ・石田・ビギナーの相手は俺がやる、お前達はアイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリを」
双子の間から、レオンが現れる。
嬉しそうにレオン様っと声が重なる、始めて会う相手だが、強者のオーラが出ていてこんな相手に勝てるかと不安になった、しかし・・。

「ユナイテッド・サンクチュアリ?」
アイチのフルネームはアイチ・先導だろうと、首を傾げる。

「あーーっ!!ええっと、気にしないで」
ただの敵の戯言だと、ナオキに気にしないように言う。
一部櫂達同様に名前を隠している、三強のフルネームを知っている人間がいた場合を考えてのこと。

(でも、彼相手にナオキ君一人じゃ・・・)
今更、櫂達と一緒にくればよかったと後悔しても遅い、カードケースの中の三枚のカードを見た。
虚無に支配されたレンを打ち勝った、唯一残されたロイヤルパラディンのカードだが残っているカードに共鳴するかのように
変色し始めて、そんなに使える状態ではなかったが、出し惜しみなどしていられない。

アイチの本当の姿を知って、ナオキはきっと一線距離を置いてしまうかもしれないけど
ナオキを死なせたくない、彼を守る。


「あの・・ナオキ君。僕、君に嘘をついていたんだ・・ごめんなさい・・」
「・・アイチ?」
悲しそうな、泣きそうな顔をして、一度だけ振り返りアイチは三枚のカードを取り出す。
それは白い光を放ち、アイチの声に答える、もう振り返ることはない。

「・・・・ほう?」
レオンは、本気のアイチを好戦的な目で見下ろす。
黄昏近くの時刻、ふわりと金髪の髪が揺れ、アイチから風と光が生まれる。


「光と影は一つとなり、そして真の力が生まれる。マジェスティ・ロードブラスターにスペリオルライド!!」

光のガラス片がはじけるように、光の卵の殻を破るように現れたのは青い髪の女性。
成長した美しくも可愛らしいが、左右には光と闇の剣が浮遊しながらアイチの左右に現れる。

「・・・は・・・・はああああっ!!」
ナオキは、顎が外れるぐらいに驚いた。
すでにヴァーミリオンにライド済みのナオキ、ライドすると姿が多少変化すると聞いたことはあったが性別まで

いや、待てよ。


アイチは、本当に男だったか?
クァドリ・フォリオにいた頃、忘れていた、ずっと思い出そうとしていた言葉が今になって甦る。


『女のくせに、騎士になるなんてあいつ、バカなんじゃねぇのか?』

そうだ、アイチは男じゃない、女だった!!
あの姿を見て、そのことにようやく思い出した。











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