「レオン様に手は出さないわよ!」
「覚悟をーー」
ジリアンとシャーリーンがアイチに迫ってくるが、アイチは動かない。
目を閉じたまま、手を大きく左右に広げると腕だけを動かすと剣が答えるように空を斬った。

「「きゃっ!!」」
あっさりと、ライドした二人を近く壁に吹き飛ばした。
レオンと言う男の護衛なら、それなりに実力はあるはずなのに、それを簡単に。

「すげぇ・・」
驚いているナオキに、レオンはさらにアイチがずっと隠していた秘密を暴露。
これほど力など、大したことできない理由を。

「当然だ、あいつは最強のヴァンガード。
クァドリ・フォリオのヴァンガード、アイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリなのだからな」
「さっ・・・三強!!アイチが!!」

そりゃ、強いはずだ。
いつもシンゴが熱く語っていた姫騎士王様が、アイチのことだったとは。

「さてと、お前と、そこの男は奴らにとって邪魔な存在らしいが消えて貰うぞ」
手にはメイルストロームのカード、広い天井もなくて、周りの被害も心配はないがナオキもいるし
あまり長時間、戦えばカードの力も失うのも早い。

「ナオキ君!!」
がしっと、アイチはナオキを自分の胸に押し掛ける形で抱きしめる。
温かなマシュマロのような胸に、ナオキは真っ赤になっているがアイチはまったく気にせず

光と影の力を一つにした剣、ブラスター・フォトン・ブレードを地面に大きく突き刺すと地面が崩壊。

「何!」
戦うよりもアイチは逃げることを選択、レオンがライドする前だったので追いかけてくることも幸いなかった。
地下にはぽっかりと穴が開いていたが、地下街として賑わいの名残か、店はそのまま残っている。

暗闇の中、アイチは一先ず身を隠す、飛べないナオキを抱えているがいい加減に胸から顔を離してもらいたい。


「・・よかった、追いかけていないみたい」
「それはいいが・・離してもらっていいか?」

このままだと、ナオキのムスコが立ち上がってしまいそうだと理性と戦っていた。
大きくはないが柔らかくて、形のいい美乳が目の前にあって押し付けられれば年頃の少年には刺激が強すぎる。

「ごめん・・苦しかった?」
「別の意味で・・・」
暗闇に目が慣れてきたのか、アイチの姿にナオキは暗闇に感謝した。
節電?モードにしているからなのか、首には襟とリボンだけで鎖骨と胸を隠していたシャツは取り払われて
代わりに黒い密着タイプがワンピースの下にあり、ビキニのような下半身に太ももは長いブーツだけでほぼ、背中も全開。

「あのっ・・ごめん!!秘密にしてて」
「わかったから・・顔を上げてくれっ・・・・・!」

頭を下げるアイチだが、見ているこちらは胸が重力に従ってプリンッと揺れるのが見えて目のやり場に非常に困る。

おそるべき、さんきょうでさいきょうだ。

「とにかく、奴らはいなさそうだし、諦めてくれたか?」
邪念を消すかのように、辺りを伺うナオキ、あんな体勢で抱きかかえられていたのでドームからどれくらい離れているわからない。

「随分広いね」
当時の生徒会長、つまり前国王直々に計画したが工事は完了したが結局、金ばかりがかかり、すぐに閉鎖。
その肝試しスポットとして学生の間では有名な地下街だが、そのおかげでレオンから逃げられたが
歩きながらナオキは、自家発電(なるかみだから)で落ちていた懐中電灯に明かりをつけた。

「でも、すげぇな・・三強一人だったなんて、たしか女は一人だけだって言っていたけどお前のことだよな」
シンゴは名前はわからないが、『白青の姫騎士王』と二つ名がつくぐらい凄かったと褒める。

しかし、そこでふと気づいた。
残りの二強、『緋血の闇帝王』『暴凶悪の竜皇帝』に最近アイチとつるむ様になってピッタリと当てはまる男が二人。

「まっ・・まさかっ・・・あいつらって・・」
「うん・・その・・・・」
地下街の暗さに負けないくらいのどんよりとした顔で、アイチはナオキにこれ以上隠し事はできないと白状。
どうせ、いつかはバレることなのだろうし。

まさかです。
それを聞いて、シンゴの明日の命が心配になった。

(恐い・強い・可愛いの三強じゃないのか?)
最後の可愛いはアイチ限定だが、しかしアイチと櫂はともかくとして、レンは別の国の帝王だ。
その三人が宮路に来ている理由、アクアフォースについて教えられた。




「世界の・・・危機って・・マジ」
「うん、あの黒いのは虚無っていうの。何処からきたかわからないけど・・とても危険で恐い・・」
クリストファーという奴と戦って気絶したのも、虚無にやられたと。
三強のアイチがそこまで追い詰められるのだから、相当やばい相手ということ。

「ごめん、ナオキ君まで巻き込むつもりなかったのに」
「良いって、気にするな。俺も馬鹿正直に女の誘いに乗っちまってさー・・・出口はまだカナー・・」
警戒はしつつ、進んでいるがあちらこちら壊れていて、出口は本当にこっちにあるのかわからない。
敵が近くにいるかもしれないのに天井に大穴開けるわけにもいかず、ただ進むのみ。

「けど、すげぇ変わったよな。お前が先導者で、三強だなんて・・」
ナオキは褒めたつもりだった、だってアイチは双子も倒し、ナオキにも強くなる方法を丁寧に教えてくれて
本当に凄くなったと、なのにアイチの表情はどんより空模様。

「そんなこと・・いつも迷ってばかりで、櫂君やレンさんに助けてもらってばかり・・」
レンに勝てたのも、ただいろんなものが積み重なった奇跡みたいなもの。
皆は違うと、アレはアイチの力だと励ましてくれるけど実感がうまくできなくて、櫂もアイチ当ての依頼がきても
断るか、櫂自らが行くか、三和を代わりに派遣させるか、きっと弱いから任せてはくれないのだろう。

「アイチ・・・。そんなことねぇって、お前はすげぇよ。俺は強いって思うぜ」
「ナオキ君・・」
目を潤ませながら、見つめられると正直反応に困る。
慌てたように顔を背けるナオキ、小さい頃は性別差も異性を意識することもなかった。

周りの男子連中は女子の話ばかりをやたらするが
どこが面白いのか、まったく理解できなかったが今ならちょぴっとわかる。

「アイチ、出口らしいのがっ・・・・」
ナオキが指先の先には光が、後ろにいるアイチに振り向きながら教えたが
彼の前にネイブルゲイザー・ドラゴンが現れる。

「ナオキ君!」
すぐにアイチが走り出す、左右に黒と白の二つの剣が空間から現れると
アイチは巨大なロケットランチャーのような武器を真っ二つする。

「アイチ!!あれがアクアフォースのユニットか!!」
ナオキも飛行して、アイチに追いつくと、後ろから追いかけてきた。
出口も近いが、あちらの方がスピードが速い。

「外に出たら・・俺がやるっ・・!」
上下に刃のついた武器に力を溜め、外に出た瞬間、ドラゴンも追いかけ大きく口を開けて迫ってきた。

「くらえっ!!エターナル・サンダーボルト!!」
巨大な雷が、ドラゴンに直撃する。
黒焦げになったドラゴンはそのまま、地面に巨大な音を立てて崩れていく。

「やった・・・!!」
ハッと、アイチが光の剣を前に出すと、何者かが降りてくる。
それはアクアフォースのユニット、ストームライダーバシルとレオンの待ち伏せをされていた。

「アイチ!」
バシルに押されるがまま、地上へと落下するアイチ。
内心、アイチは焦っていた、予想以上にマジェスティが力を失いつつある。

それを無理矢理維持させているのは、PSYクオリアのおかげ、これによって始めて無理を成立できている。

(早く逃げないと・・・)
闇の剣でバシルの腹を突き刺すと、カードへと戻っていくがレオンはユニットを次々にコールしていく。
まるで、水の力を持つ正義の大艦隊かのように。
ナオキの方も、戦闘になれているレオン相手に苦戦している。

「一気に決める!」
両手を合わせて、気持ちの良い音が響く。二つの剣の力を合わせると、ブラスター・フォトン・ブレードが現れる。

「はああっ!」
レオンに向かって大きく剣を振るが、ユニット達に邪魔されてしまう。
ボスを叩こうとするアイチをナオキが援護、巨大な雷で一気にユニットを倒し、道を作ってくれた。

「行けー、アイチ!」
「うんっ!」

剣を大きく振り下そうとするのに、レオンは微動だにしない。
彼の背後から、メイルストロームが現れた。まるでレオンを守るように蠢いている。

「メイルストロームにライド!」
再び、軍服の彼が現れる。
万全の状態で、戦うことになろうとはと構えると、誰かがアイチを呼んだ気がした。


〈私達も戦うよ。でも・・・貴方が呼んでくれないと・・・〉


「・・・・・君は?」
櫂でも、レンでもない、でも今は謎の声の主を探している場合じゃない。
ブラスター・フォトン・ブレードで、レオンを相手にするが、空を中型のクリスタルの埋められたユニットが
あらゆる方向から、アイチに向かってビームを発射し、なかなかレオンに近づけない。

「これがっ・・・メイルストローム!!」
唇を噛みしめ、やはり剣を分離させた。
息も次第に荒くなっていく、元々体力がそれほどないアイチに連続しての力の使用は相当辛い。

額から滲み出た汗が、頬を伝い、顎の先から地面に落ちていく。
ナオキもアイチが相当疲労しているのを見ていたが「大丈夫だよ」と苦しそうに言われれば、深く言えないし

何よりもアイチは強い、信じてあげなければいけない。
此処で手を貸したらアイチはまた、自分を追い込んでしまう。

(でもっ・・やっぱり辛そうだ)
メイルストロームとかいうユニットにライドしたレオン相手に、ナオキはアイチを連れて逃げる自信はないが
今のナオキならできる気がする、・・・違う、できるのではなくやらなければ。

此処でレオンを倒せば、アイチはこれ以上無理しなくて済む。

「どいてろ、アイチ!」
地下街で追いかけていたドラゴン相手にぶちかましたのと、同じ技だが込める力が違う。
空に向かって、上下の刃には銀色の雷が宿り始める。

「!」
「くらえっ!!エターナル・サンダーボルト!!」
巨大な雷が、レオンに向かって落とされる。
自分でもこれはいけた、倒せたぞと確信したが、アイチが何か叫んでいた。

「なんだよ、アイチ。もう倒したぜー」
真下にするアイチに顔を向けた、目の前の敵から目を背けてしまう。
それはヴァンガードが絶対にしてはならない、戦闘が終わるまで。

「ナオキ君!!」
「だからさー」

倒したのにと言う前に、急いで近づいてきたアイチの腹部を何かが貫いた。
それがビームだと、まだレオンは倒れてなどいなかった。

血を流して倒れるアイチをまるでスローモーションのように落ちていく姿。
見開いた青い目と、「逃げて・・・・」と力なくいうアイチ。

「アイチーーー!」
すぐに、アイチの身体を地面に落ちる寸前で受け止める。
腹部の傷は深く、ナオキはライドされた服を破いて止血したが、止まらない。

「くそっ・・・アイチ!!ごめん・・俺が油断して・・」
目を閉じたまま、気を失っている。
口先と腹からは血が流れ、顔色もどんどん悪くなっていく。

アイチは気付いていた、レオンがやられていないことに。
なのに、倒したと勘違いして敵から目を背けて、ダメージは負わせたが致命傷ではない。

「ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン・・お前ではまだ完全に使いこなせていないおかげで助かったぞ」
完全に使いこなしていたら、レオンもただでは済まなかった。
レオンは持っていたヒールトリガーを使い、回復してナオキの攻撃をなかったことにされてしまう。

これでは、ただアイチが無駄に重傷を負っただけではないか?

「くそ・・・・!!」
アイチの肩を掴み、自分に引き寄せる。
せめて、アイチだけでも守れるように、こうなったは全部ナオキのせいでアイチは心配してきてくれだたけ。

「最後だ、ナオキ・石田・ビギナー」
手を前に翳すレオン、ぐっとアイチの小さな肩を持つ手に力がこもるが、何か気付いたレオンが空へ攻撃を放った。

「えっ・・・上?」
するとビームを紅い炎が弾いた、空は真っ赤に染まる。
暮れる太陽よりも赤いそれを黒い影が隠すように、包むと誰かがいた。


「きたか・・・!」
目を細め、攻撃の標的を上空に変更した。
ナオキは何が起こったかわからないが、上空から紅いドラゴンが降りてきた・・が、それはドラゴンではない。

「・・・お前っ!!」
それは櫂と、そしてレンだった。


この場で三強が、揃った。
二人はアイチとナオキの前に降り立ち、アイチにトドメを刺したくば二強が相手だと言わんばかりだった。











inserted by FC2 system