「間に合ってよかった、君のおかげですよ。あんな派手な戦い方をアイチ君はしませんから」
大型の黒いレンの身長ほどもある大剣を両手にそれぞれ一本ずつ軽々と持ちかえると
地面に突き刺して、持っていた回復系のカードをアイチの前に翳す。

「こっちは僕が、そっちは頼みましたよ」
「ああ・・・」
後ろを見ようともせず、櫂は片手に光る剣と、銃を手にしている。
紅色と金色の鎧、ジ・エンドにライドした櫂。

(アイチが携帯を落していって助かったな・・・出なければ此処までくることはできなかった・・が)

もっと早く、到着していれば。
そう後悔するのは、レンによって応急処置を受けている顔白い顔のアイチを櫂が見るのは二回目だ。

以前の様に、櫂も成長したのかアイチの血で気分不快になることはないが
櫂を庇って倒れた時のことを思い出し、それでも胸が苦しく、怖い。

ナオキのところへ行くことしか、アイチは考えてなかったか何も言わずに飛び出していき
一気に加速されて追いかけることもできずにいると、櫂が落ちていた携帯の画面を見て
アイチ同じことに感づいて、すぐに指定した場所へレンと共に向かうが戦いの後の痕跡はあったものの
敵もアイチの姿もなかったが、遠くででかい雷音が聞こえ、そのおかげで場所がわかった。

「フッ・・かげろう最強のヴァンガード、トシキ・櫂・ドラゴンエンパイヤか。
そんな憎いか、お前の婚約者であるアイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリを殺しかけた俺が」

「こっ・・婚約者ーーー!!」
アイチと、櫂がっ!!
そのことを知らなかったナオキは、櫂の後ろ姿とアイチを交互に見る。
レンのおかげでアイチの顔色はよくなってきているが、よく考えると櫂一人でレオンと戦うことになる。

「あいつっ・・一人で平気なのかよ。いくら三強だって・・」
「平気ですよ、助太刀なんてしたら後が恐いですよ。だって大事なアイチ君を傷つけたんですから」
そう言いつつ、次第に黒味を増すレンの空気に、あんたもこえぇよと内心思った。


「絶対正義の前に、消え失せろ」
「・・・何が正義だ、笑わせる」

巨大な力のぶつかりあいで、ナオキは吹き飛ばされそうになる。
横になっているアイチ周辺はレンが、壁を作ってガードしているおかげで飛ばされることはない。

ナオキの分まで、壁を広げないのはいじわるだろうか?
しかしこれぐらい自分で何とかしてくれないと、今後の戦いにも毎回こんな調子では困る。

「・・・・・・」
応急処置が半分終わったところで、アイチのスペリオルライドは解除され、いつものアイチに戻る。
そして、三枚のカードはアイチの胸へと落ちる煤がついたように汚れた状態になり

レンは目を細め、そしてアイチを悲しげな顔で見た。
目を覚ました時にレンはアイチに残酷な覚悟を迫らなければいけないからだ。

「レヴァン!」
「いけ、ブレイジングフレア・ドラゴン」

コールをしつつ、銃と剣で全方向から飛んでくるビームをガードしつつ、破壊も行っていく。
まるで背中に目がついているかのように、的確に銃を撃つ、さらにレオンからも目を離さない

怖ろしいほど強い男だと、レオンは敵ながらその強さを認めた。

「なるほど、三強と言われるだけはあるな」
本来、アクアフォースとかげろうの力は元素の理論からしてかげろう最大の敵のはずだが
それをもろともせずに、レオンに此処まで力を出させる櫂だが、アイチを傷つけた怒りも対等以上に
此処まで戦っている理由の一つだが、こんなところで全てを出して戦うのが目的ではない。

レオンは倒れているアイチの近くにいる、ナオキを見た。
本当はナオキを狙ってはいたが、近くにいるレンがレオンの考えを読んでいるかのような、冷たい笑みで睨んできた。

(なるほど、闇の先導者は気付いたか)
櫂と同じく、目を見ただけで相当な怒り感じ、アイチの応急処置を終え次第、櫂と共にレオンを倒しに参加してくるだろう。

「さすがに二人相手では、今の俺では勝てん・・・此処は引く。
だが忘れるな、我々は絶対正義の名の下に、貴様らに風の審判を下すと」

竜巻が、起きるとレオンを包んだ後、自然消滅したかのように消えていく。
追いかけるが奴の気配はなく、逃げられてしまった。

「チッ・・・」
レオンがいないのであれば、やることは一つ。
高い場所から、飛び降りるとアイチの元へ。

顔色はいくらか良くはなってはいるが、早く回復系に長けたヴァンガードに診せる必要がある。
全てのカードを使えるレンでも、やはり極めたわけではなく完全回復は難しかった。

「お前っ・・!よくもアイチを」
「櫂」
今はそれどころではないと、、レンは静かに強く名を呼ぶ。
だが櫂は止まらず、不安なそうなナオキに追い打ちをかけるように胸倉を掴む。

責めるのは後でもできるが最優先すべきなのは、早くアイチを連れてこの場を離れることなのに
頭に血が上って、冷静な判断が櫂にはできない。


「俺の・・・せいだっ・・アイチは大丈夫だって・・信じたから・・」
戦うたびに強くなっていくのが嬉しくて、アイチは頼られていないことが不安だったから
せめてナオキだけでもアイチを信じてあげようと、無理しているのはわかっていたけど心配や気遣いは
後でアイチを傷つけるだけど、あんな強力な技も使えるようになって、倒したと完全に油断した。

「アイチが体力がないのは、お前も知っているだろう!!なのに、こんな」
本当は宮路に行かせるのだって、内心反対だったが、アイチは三強の一人だと皆が認めていて
多少危険でも強いから大丈夫だと、アイチも誰かの役に立ちたいとやる気に満ちていて

止めろなんて、危険なことをしないでくれなどといえなかった。

いつも無表情の櫂がこんなにも怒りを露わにして、レンは止められず、見ているだけしかできない。

ナオキも、普段無表情で、人らしい感情を持っているのかさえも疑ってはいた櫂が
こんなにも強い怒りをぶつけられ混乱していると

櫂のマントの裾を誰かが、弱弱しく引っ張る。
それはアイチだった。


「やめて・・・櫂君」
「アイチ!」

かすれたような声で、アイチは櫂を止める。
目は僅かに開いてはいるが、青は輝き失い、色褪せていた。

「僕が大丈夫って、そう思って・・ナオキ君は僕を信じた・・・だけ・・悪いのは僕・・限界だってわかっていたのに・・・」
「もういいから、何も言うな」
裾を掴んでいたアイチの手を握り、泣きそうな顔をする。
気を抜くと失ってしまう意識の中では、きっとこの時の櫂の顔など忘れてしまうだろう。

櫂がどれほど、自分を愛し、守りたいと思っているか。

「ナオキ君・・巻き込んで・・・ごめんなさ・・・」
再びアイチは気を失う、櫂が何度も呼びかけるがアイチは返事をしない。
櫂に横抱きにされ、一時部屋へと戻ることに。

ナオキは顔を下に俯かせて、動こうとしないでいるとレンが後ろを振り返ると。

「君も行きますよ。こんなところ早く離れた方がいい」
「レン・・・・」
「ダメですよ、置いてきぼりは。アイチ君にあとで怒られて、嫌われてもいいなら別ですけど」

僕は知りませんけどと、意地悪な言い方をすると櫂はもう何も言わない。
アイチを抱えたまま、地面を蹴り、そのまま飛んでいくと次にレンが、ナオキも後に続いていく。




「まったく、様子を見に来れば・・・生傷が絶えないというか・・・」
偶然、回復系も使えるヴァンガードのコーリンがアイチを訪ねてきていた。
テツと共にアイチと櫂の部屋で待っていると、ライドした櫂に抱えられたアイチを見て、すぐに治療を開始。

「・・・恩に着る」
櫂は、小さくコーリンに礼を言った。

「あんたのためじゃないし。アイチのためよ」
コーリンは櫂の方を見ることなく、治療に専念。
レオンの攻撃は虚無の力も混ざっていて並みのヴァンガードの力は弾かれてしまう。

虚無にもっとも有効な打撃を与えられるのは、アイチだがそのアイチが倒れた場合を今後、考えなければ。
できることなら、戦場に出るのはレンと櫂だけで、アイチには後方に下がっていてもらいたい。

「男どもは、別に部屋にいなさい、用があったら呼ぶから」
そういうとコーリンはナオキ以外、外へと追い出す。
床に座り込んで暗い顔したナオキを、彼らと一緒になどできない、座ったまま微動だにしない。

後ろに振り返り、気にしつつも今はアイチの治療に専念する。
それから二時間後、アイチの治療は一先ず終わると、ペットボトルの飲料水を差し出した。

「疲れたでしょ、飲みなさい・・」
「けど・・・」
やっと顔を上げたが、酷い顔をしている。

「この宮地じゃ、こっちも味方も少ないんだから、事情を知ったあんたも戦力に入れられてるんだからね」
タクトは、少なくともナオキは、アイチ側と考えている。
そのままコーリンはナオキの隣に座り、ジャスミンティーを飲んで、一休み。

「アイチはああいう性格なんだから、あんたを庇ったのも別にあんたが悪いとかじゃないし」
それも櫂も理解はしているのに、ナオキに八つ当たりをしているだけ。
実際にどうだったかはわからないが、櫂はいつも健気に後ろからついてきているアイチが
ナオキに付きっきりで戦い方を教えたりして、嫉妬も考えられる。

アレは身体の大きな、ただの子供だ。

「しっかりしないよ、あんたも頼りにしているだから」
「・・・・・?」
シンゴではないが、初心者のナオキなどに期待?
どういう意味なのだろうか。

「・・・・コーリンさん?」
弱々しい、アイチの声に二人は立ち上がり、ベットで横になっているアイチの元へ駆け寄る。
顔色もよくなってきて、意識もはっきりしており、命は保障できるとホッとするコーリン。

「大丈夫か、アイチ・・」
「うん、ごめんね。ナオキ君・・・・・」

心配かけまいと、まだしんどいのに笑って答えてくれたアイチにナオキはずっと心に溜めいたものを吐いた。
こんな卑怯者、アイチが庇う価値もない、何故ならナオキは見て見ぬふりをして、アイチを助けなかった。

「どうしてっ・・・俺はお前のことを助けなかったのに・・!!昔、いじめられてボロボロのお前に・・・何もしなかった!」
自分でそうしておきながら、手の平に爪が食い込むぐらいに握る。
櫂と三和に出会う前、アイチは一人ぽっちでいつもボロボロで、大人は気付いてなかったけどナオキは見ていた。

しかし短期しか滞在しないから、関係ないと大人にも告げ口もせず、止めようとも、助けようともしなかった。


本国へ帰る日、出発まで散歩を一人でしていた時、深いから近づくなと親から言われていた池の前にアイチは
いつものように顔にキズを作って、一人半べそかいていた。


「そんなことはないよ、ナオキ君は僕を助けてくれた」
コーリンに頼んで、カードケースを持ってきてもらう。
その奥にしまっているものを、ナオキに見せようと、まだ上手く動かせない指に力を入れた。




「おい!」
後ろから、知らない男の子に声をかけられて一瞬怯えた表情となる。
またいじめられる、時々知らない人間も加わっていじめられているのをアイチは知っているからだ。

怒ったような顔をして、アイチに近づくとポケットに乱暴に手を入れると
当時、流行っていた漫画のイラストが描かれた絆創膏を一枚手渡す。

「やるよ」
「ふぇ・・・・・・」



とても、久しぶりだった。
他人に優しくしてもらったことが、この歳には恥ずかしいすぎるがこれで最後だからと言い聞かせている。

「ありが・・とう・・」
「じゃあなっ!!」

アイチが受け取ると、ナオキは一目散にその場を去る。
その後ろ姿はとてもカッコよくて、まるで恋する乙女のように頬を染めて見送った。

あのまま池に、落ちようかとも思っていた。
いじめられるのは辛いし、皆お前はいらない、消えてしまえ・・・死ねばいいと言われ続けていたから。

特技も、体力もなくて、何も言い返す言葉がなくて、だったらいっそこのまま。
そんな追い詰められていたアイチを救ってくれた。



ずっと彼のことを、アイチはずっと忘れないでいた。
逆にナオキは忘れていた、その後、アイチがどうなったのかとも調べようともせずに。


そして、この地で再会をした。















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