ドアの外で盗み見する気はなかったが、アイチのことが心配で着ていた櫂達は二人の出会いを
コーリンにも気付かれないように、気配を殺して聞いていた。

レンの隣にいる櫂は、面白くなさそうなのかずっとむっすりとしている。


「お前に出会うまで、忘れていた・・・・誰かに助けられたかのさえも・・わからないままだったのに。ごめんなっ!」
「・・・ナオキ君」

瞬きをし、頭を下げてきたナオキにアイチは優しく頭を上げてと答えた。
あの後、三和と櫂に出会って助けてもらったから大丈夫、ナオキのくれた絆創膏のおかげで
生きることを諦めずにできたと、薄汚れた絆創膏をナオキに渡す。

「ずっと、あの時はありがとうって・・言いたくて」
「まだ・・・持ってたのかよ・・」
怪我していたあの時こそ、使うべきじゃないのか?
大事にもっておくほどの大切なものでもない、あげたのも気まぐれに類で深い意味など当時はなかったのに。

「うん、だって・・」
カードケースを見て、アイチは息を飲んだ。
マジェスティのカードの絵柄が墨に塗りつぶされたかのように変色していたから。

ブラスター・ブレード、ブラスター・ダークは真っ黒になってどっちだったかアイチに見分けがつかない。

「レン・NAL・雀ヶ森が言っていたわ。もう・・・ロイヤルパラディンは使えないだろうって」
「そんなっ・・・!!」

元々虚無の力に浸食をされて、時間も問題だった。
引き出しに保管してある、クレイアカデミーではまだ絵柄は見えたが

そちらも同じ状態になっているだろうとレンは言っていた。
櫂のために、ロイヤルパラディンになって戦う。

そのために頑張ってきたが、そのロイヤルパラディンを失った。
アイチにとって大切な友人が消えてしまったのも同じ、一筋の涙がアイチの瞳から零れる。



もう二度と、使えない。
戦えないような気がして、これからのことも、何も考えられず・・真っ白だった。

コーリンはウルトアレアという地位を使い、宮路の滞在を特別に許可され
アイチが動けるようになるまで治療を続けてくれた。

しかし、傷は治っても肝心の心の傷までは、治す力はない。
ロイヤルパラディンのことを知って、塞ぎこんで必要な会話以外話そうともしないが

櫂とアイチで使っていた部屋も、櫂は今、テツのところで寝泊まりして
コーリンが急変も考えられたまでこの部屋で寝泊まりをしている。

あまり見舞いにはこなかった櫂が、険しい顔で部屋に来て
ショックを受けているアイチに追い打ちをかけるような事を言い出した。




「婚約を解消する」
「・・・えっ・・・!」



「あんたっ・・今、アイチの状態わかって・・!」
愛想を振り向くアイドルとは思えなほど、眉間の皺が寄り、目も敵を睨むように見つめるが櫂は動じない。
目を見開いて、固まるアイチ。

「僕・・・いらないの?ロイヤルパラディンを失ったからっ・・・」
手には黒く染まったカードがあり、使えないカードを今でも大切にしている。
だが、アイチはヴァンガードで彼らを失っても戦わなければならない、それをアイチは忘れていた。

「違う、今のお前はヴァンガードじゃない。ただのカードコレクターと同じだ」
「!」

カードを持っているだけで、満足している。
大切なロイヤルパラディンを失ったばかりのアイチに対して

非情な言葉をかける櫂をコーリンは一発ぶん殴ってやりたくなった。

「そんな戦うこともできない、お前と共に生きていくことなどできない。
俺はこれから見つかった最後のアクアフォースの元へ行く、お前は此処にいろ」

それだけを告げて、櫂は部屋を出る。
外へ出ると、つけていた仮面が外れるように、壁に穴が開くぐらいに大きく叩く。

(これでいい)

婚約を解消したが、元々男避けのため。
最後に見たアイチの泣きそうな顔が頭から離れない、まだ本調子ではないアイチを戦わせるわけにはいかないし

今、アイチの近くにナオキがいて、アイチはいつもナオキを気にかけている。
初心者で、昔を知る人間だから、当たり前のはずなのに、他人に無関心なはずなのに

アイチのこととなると、心が狭くてなる。
本音を言えば、アイチに櫂以外の男が近づくのも嫌だ。

「もう、お前は戦わなくていいんだ・・・・−−−!」
レン達の待ち合わせをしてる場所へ、顔を上げ、いつもの冷静な己を取り戻すかのように歩いていく。
入れ違いでナオキが、通ったのにも気づかずに。


「おい、今そこで・・・あいつと」
差し入れの菓子を持参し、部屋に入るとアイチが泣いていた。
コーリンが背中を支え、どうしたのかと慌ててアイチのところへ近づいていく。

「僕・・・婚約をっ・・解消されっ・・・て・・・ロイヤルパラディンの持っていない僕はっ・・・いらないって!」
「はぁ?・・なんだよ・・それ!」
氾濫した川のように、止まることのない涙。
櫂に嫌われた、捨てられた、足を引っ張ってばかりで今回のことで愛想を尽かされたと泣き続けるアイチ。

「・・・そんなことねえよ!!」
ナオキは櫂の言葉を否定すると、アイチの机の上に置いてあったカードケースを取り出す。
それはゴールドパラディンの入ったカードケース、まだアイチにはこれがある。

「これで戦えばいいだろう!!そしてあいつをぎゃふんっと言わせてやれ、戦えることの証明のために!!」
ナオキがアイチの前に差し出したカード、まだ戦える。
使い慣れたロイヤルパラディンで、本当に櫂が認めるほど強くなれるのか、積み重ねたことがまたゼロになったようで
今までの苦労、カード達との繋がりが消えたようで恐い。

「お前さっ、カードを作れるPSYウォーリア持っているだろ!!
だったら作ればいいじゃねーか、そんなにこいつらと戦うのが嫌いなら!」

PSYクオリアねと、コーリンはあえて声には出さないが
せっかくカッコイイこと言っているのに一部の間違いのせいで台無しだと呟く。

嫌いじゃない、でもゴールドパラディンはアイチに合っていないように気がするだけ。
そっと手を伸ばし、ナオキの手から受け取ると、黄金の光が現れて、部屋を眩しく包む。

皆が目を瞑り、アイチも眩しさにあまり、目を閉じ・・・開いた時にはゴールドパラディン達がいた。



「・・君達」
〈マイ・ヴァンガード・・・・〉


この声には聞き覚えがあった、黄金の鬣のような髪のユニット。
ずっと呼んで、一緒に戦おうと彼らの方から手を伸ばしてくれていたのに、考えようともしなかった。

「僕、櫂君の役に立ちたいって・・力になりたい、それは別に君達とでもできるよね」
『はい、貴方が望むのであれば、我々の貴方の剣となり、盾となり、鎧となるでしょう』

片膝をつこうと、主従の証を立てようとするのをアイチが止め、彼に手を差し出した。
主と仕える関係などアイチは望んでいない、対等に言い合える仲でありたいと。

「これから、よろしくお願いします」

ゴールドパラディンを真に受け入れた証。
彼は大きな手を伸ばし、小さくとも強く、ゴールドパラディンを使うのにふさわしいヴァンガードだ。

そして、アイチは新たなカードを生み出した。
本当にゴールドパラディン達とヴァンガードになった証。

「これって・・・」
覗き込むようにコーリンとナオキはカードの絵柄を見た。

もう、アイチに迷いはない。
数分前まで、泣いていた少女は何処にもいなかった、そして新しいクランを手に入れたことは、アイチにさらに進化をさせる。


「そこにいるのは、誰?」
部屋の出入り口ドアに向かって、アイチは問いかける。
レンも櫂でもない、室内にいたアイチ以外の人間はいつでも戦えるように構えるがアイチは手でそれを静止させた。

「危害を加える感じない、いつかの君だね?」
そう言うと、まるで観念したかのように扉が開いた、入ってきたのは武闘大会で戦ったチームジニアスの一人アリだった。


「てめぇっ!!あの時の、何しにきやがった!!」
イノシシ型思考のナオキは、ヴァーミリオンのカードを取り出すが、アリは手を前に出し
何も武器になるようなものを持っていないと示す。





「安心してよ、僕は君達と戦う気はない、ただ・・助けてほしいんだよ。



僕の友人を」





あの虚無から。


















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