あの虚無は、何処からやってきたはわからない。
その国の王すらも、知らない間に国民が取り込まれている。

ごく自然に誰もが持つ闇の感情を糧にして。
悲しみと絶望は虚無を呼び、怒りと力を光を食うことで与える。

「詳しくはいえないけど、僕達はある国の将来を約束されたヴァンガードなんだ」
アリは出入口に立ったまま、アイチが助けてくれると信じて全てを話した。
でも、どうして今・・それにアイチなどに?

それを聞くと、困ったように肩を竦めながら。

「僕も助けてくれるなら、お姉さんの方がいいって思ってさ。
・・・・・・・残りの二人が助けくれるようなタイプには見えないだろう」

確かに。
自分のことは自分でなんとかしろ派と、無関心論外派しかない。
この場にいる三人が、自然と納得してしまうのは何故だろう。
もっと早く話がしたかったが、レンと櫂が常にアイチの周りにいて、近づけなかったとか。


「それは置いといて・・・、君達の故郷は知らないけど、僕達の故郷は何にもない、山ばっかりのところだったんだ」


遠く見つめるその先は彼らの故郷なのだろう。


深い緑色の山々に囲まれた、本当はただの農村で一日中畑を耕していたけど
クリストファーとリーは小さな図書館で勉強するのが好きだった、特に国の英雄であるヴァンガード本ばかり。

「クリス、そんな本見て楽しいか?」
「楽しいよ、特に勇気を剣にして戦うブラスター・ブレードとか・・僕もいつかそうなりたいな」

そんな二人につられて、アリもヴァンガードに関する本を読み始めて
子供向けの本では飽きてきて、大人も眠くなりそうな本を読むのにそうは時間はかからなかった。

大きくなっていくにつれて本当にヴァンガードになりたくて、国からの支援金でアカデミーに通うことになったが

農村であるという理由で、特に優秀だったクリスは貴族達から徹底的ともいえる嫌がらせを受けていた。
それでもヴァンガードになりたくて、必死に耐え、トップの成績でアカデミーの頂点に立った時
不正を働いたと濡れ衣をかけられた、続いてリーにも同じように不正を働いたと後ろ盾のない三人は
金にした興味のない学長に対して調べれることもなく、退学を余儀なくされた。


もっと力があれば、ヴァンガードとしても、人としても。


「別のアカデミーに行く選択もあるって、クレイアカデミーとかどうだ!!女子の制服めっちゃ可愛いらしいぜ!!」
内心、悔しいが切り替えが大事だと、明るく彼らに笑うが表情は暗い。
次の日になって、アリも驚くことが起きていた。


クリス達が貴族の家系になっていて、いつの間にか正規のヴァンガードにもなっていたこと。
二人だけじゃない、アカデミーにいた全員の記憶が塗り替えられている。

(どうなっているんだよ・・・)
そして逆に、クリスを追い込んだ奴らをアカデミーから追い出すと、クリスはこんなことをアリに言ってきた。



「知っているかい、ヴァンガード三強のこと。
シャドウパラディン、かげろう、ロイヤルパラディンのクランを持つ、僕らと対して歳の変わらない彼らが
なんで最強の称号を手にしているなんて、許せないと思わないかい?」

「おっ・・・おい」
遠い国で、そんな三人が現れたと聞いていた、特に白青の姫騎士王に興味深々。
背を向けていたクリスが、こちらに振り向いた時、まるで別人のように背筋が凍る感じがした。

「僕の方が強い、そうだろう・・あんな奴らなんかよりも・・・!!」
「ああ・・同感だ。君も一緒に来てくれるだろう?アリ?」






後から気付いた、虚無という闇に支配されていて、そいつらはアイチを恐れていること。
一度虚無に侵食されたレンを救ったことで、最大の標的とし、狙ってはいたが周りにいる者に邪魔をされて手が出せなかったと。

「だから、ロイヤルパラディンを最初に使わせなくさせたってわけ?」
今までの話を整理し、冷静にコーリンはまずアイチのクランを使用不可にさせたこと。
長年使っていたロイヤルパラディンを失い、混乱している隙をついたが

まさかゴールドパラディンを手にするとは予想外だったのだろう。

「なんか・・頭痛くなってきた・・・とにかくっ!!その虚無を叩けばいいんだろうが!!」
「簡単にいうね・・お兄さん。実体ない上に迂闊に近づくと取り込まれるよ。
境界線を間違えるとあっという間に取り込まれる」

指で犬の形を作り、食べられる様を再現。

「うっ・・!!」
レオンは虚無の力を使っているが、一部でしかないと聞いて敵の大きさにビビる。
そんなナオキを見て、わからないことがあった。

「そういえば、どうしてレオン君達はナオキ君を?」
「あれ・・・気付いてないの?お姉さん・・僕はてっきり・・・・」

「???」

アイチは意味がわからないという顔をしている、それにコーリンは首を左右に振り、ナオキを導いていることと
アクアフォースにとってナオキは最大の天敵だということも、わかっていないようだ。

「それは置いというて、アクアフォースの最後のカードの場所・・・
残りの二人は気付いたらしいけど、一緒に行かない?僕がエスコートするよ?」

ウインクをし、ハートを飛ばすが鈍い音とともに弾かれる。
「よしっ、行こう」とアイチはアリが、何をしたのかまったくわかっていないし、コーリンの反応は冷ややかだ。

少し驚いた顔をするが、女子にモテる自信はあったのだが初めてのタイプだったようだ。


「やれやれ・・一途に相手を想う相手には効かないか?」
誰を呼びさしているのか、自覚なしと自覚ありとで首を傾げ、赤面して否定をする。
ナオキはというと、アイチと似たような反応だ。




「入るぞ」
警備隊を問答無用で、気絶させるともう正体を隠す必要はないと櫂、レン、アサカの三人で生徒会室に殴りこむ。
突然入ってきた三人に、席から立ち上がる生徒会役員。

「なんだねっ・・君達はこの神聖な場所に土足で」
「さっさと逃げた方がいいわよ、私達よりももっと野蛮な奴らがくるから」
一刀両断し、中へと進む。
アイチ不在で、現在アクアフォースの気配が辿れそうなのはレンだけだが、目を閉じ、漏れる小さな気配を掴もうとする。

「こっちです、もっと部屋の奥ですね」
進もうとした時、アサカの言う野蛮な奴らが登場。
室内はまるで台風が直撃したような風に、書類の紙が天井高く上がっていく。


現れたのはレオンと、双子の従者だったる





「なーんで、僕まで外に」
「当たり前だろうが!!アイチが着替えているんだぞ!!」

こんな時だけ、子供面するなと怒鳴られるアリ。
アイチは気にしていなかったが、コーリンに連行!!とナオキは彼を引きずって外へ出す。

血で汚れた服をコーリンが寝間着に着替えさせ、今は制服に着替えている。
まだ体調は万全ではないが、奴らはに最後のアクアフォースのカードを渡すわけにはいかない。

「ところで婚約解消されたとかどうとか・・・言っていたけど・・僕、立候補しようかー」
「バカか!!子供のくせに何を言ってやがる!!」
そういうセリフは大きくなってからにしろと、怒鳴るナオキ。
頭に血が上りやすい単純型だが、考えすぎの二人とは真逆のタイプであり、確かに天敵かもしれない。


「お待たせ」
宮地の制服を着たアイチ、もしかしたら最後になるかもしれない。
コーリンの後ろから続く、アイチを心配して一緒にきてくれるらしい。

「コーリンさんも、ありがとうございます・・」
「いっ・・・いいのよ。こいつらだけじゃ心配だし、それに・・・」
まだ言っていない使命のことを、タクトのことも。
コーリン自身の力を貸してはダメ、なんてことは言われていないし、アイチを失うわけにはいかない。

4人は生徒会室の建物へと、飛行しながら急ぐ。
まるで西洋の城のような、少しクァドリ・フォリオに似ているが作りは豪華で金を無駄に掛けているようにも見えた。

夜の闇の中、アイチ達4人は飛行しているとリーが立ちはだかる。

「裏切ったのかい?アリ」
「・・・・っ!!」

完全に取り込まれたリーに、これが虚無かと全員が息を飲む。
夜だというのにはっきり見える、身体から漏れ出す黒き闇、心の光という理性を喰い、闇だけが大きく残った姿。

「もうやめろっ!!お前もあいつもっ・・こんなことしても・・」
昔を思い出してほしいと、涙目でアリは叫んだ。
純粋にヴァンガードに憧れて、いつかそうなりたいとユニットと話がしていた純粋だったあの頃に。

「あんな子供の頃に戻りたい?・・・・僕は嫌だね」
友人だとは、もう思っていないとユニットが攻撃をしてくると、サロメにライドしたコーリンが前に出てガードするが
吹き飛ばされてしまい、ナオキが慌ててコーリンの身体を地面に落ちる前に受け止めた。

「力負けしたっ・・そんなっ・・」
ナオキの手を借りながら、コーリンは立ち上がる。

「虚無という力の前に、あまりにも無力だよ。君達は・・・・・」
一気にリーの身体から、広がる虚無だが、アイチは皆の前に出ると、身体が金色の光が現れ虚無が弾かれた。

金色の光の壁によって。

「何!」
「もう効かないよ。君の心の闇は」

アイチの前に、ゴールドパラディンのカードがアイチの前に丸い円を囲む。
クリスにやられたのと同じ力を手にし、それをぶつけようと黒い闇を刃に変えるが、それも弾かれる。

「道を開けてくれないかな?僕は彼のところへいかなきゃいけないんだ」
光に満ちた青色の目、力を手に入れたはずだが何故だろう、アイチの力の方が強く輝いていると思うのは。

「僕はお前達三強も、クリスも超えるんだっ・・・・負けたくない!」
「・・・リー」

二人はいつも競い合うようにして争っていたライバルで、それは良い意味でのこと。
いつから、こんなに歪んでしまったのだろうか。

「アリ君、下がって・・・」
アイチが前に出る、先へ急ぐアイチは性別を偽ることを止め、ブロンドエイゼルにライド。
二本の剣を構え、リーと対峙する。

「僕は先へ行かなければいけません」
「通すわけにはいかないよ、・・・・・絶対に!!」

その言葉同時に、黒い闇がさらに深く、大きくなっていく。
ナオキ達は後ろへと下がる、アイチを避けるかのように広がる闇の中、リーの心が見えた。

両親に良い暮らしを、クリスのように純粋にヴァンガードに憧れていたわけでない。
ヴァンガードになれば国が生活を保障してくれる、勉強は得意だったからそれを生かして、人よりも優秀な

いつも上を行くクリスよりも、もっと上を。


「レオパルト!!」
身体に牙の生えたような豹が、襲いかかってくる。
アイチは剣で受け止めつつ、火花を散らせながら受け止めた。

弾くと、レオパルドの身体に剣を突き刺した、「ごめんね」と小さく謝って。
次のカードを取り戻す前に、アイチはダッシュし、リーの元へ。

「消え去され!!彼の元から、光の先導者の名の下に、光の力を!!」
空に手を伸ばすと、アイチの身体から金色の光があふれる。
リーの身体を照らし、背から何か黒い影が飛び出していく。

「あれか!!」
ヴァーミリオンにライドしたナオキが一撃を食わすと、虚無は消えていく。
アイチの光で弱っていたおかげで、倒せ、リーの身体からも虚無の気配はしない。

「大丈夫かっ、リー・・!」
「・・・・・・・・ああ・・・平気だ」
しかし顔色は悪い、すまないと謝ると彼は気を失う。
アリは何度も話しかけるが、コーリンが駆け寄り、様子を見たがただ気を失っているだけとのこと。

「彼らをお願いします、僕とナオキ君は先へいかないと・・・虚無の力が強くなっている気がします・・・彼らも来ている」
「あのレオンとかいう奴も、来ているのかよ!!でもあの二人なら、心配ねーんじゃねー」

ナオキの目の前でも、互角以上に戦っていたので逆に来たことを怒られそうだ。
だが、それは近くに『アイチ』がいたから。

「それでも、いかないと、トシキ君に会わないと」
ごく自然にアイチは言ったのだけど、ナオキもコーリンも驚いていた。
『櫂君』ではなく『トシキ君』と呼んでいるアイチに。


「どうしたの?」
「・・別に、まぁ・・行こうか。二人を頼んだぜ!!コーリン!!」

二人は一気に加速し、アイチもスピードの出やすいペリノアにライドし直し、城へと急ぐ。
近くまでいくと、炎が立ち込めて大変なことになっているのがわかった。


「アイチ、あれって・・・!」
「・・あそこに最後のアクアフォースのカードが・・・・!!」

しかも、もっとも危険なカードが。
そして・・もう一つ。


最後の希望として、残したカードも。













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