空気の壁を突破し、アイチが目を開けると真っ暗に空に出ていた。
タクトは宇宙からグローリー・メイルストロームが攻撃を行うつもりで
海ではなく今度は宙〈ソラ〉から世界を支配するのだと。
「そんなとこはさせない!!」
黄金の翼をたたむと、グローリー・メイルストロームを探そうとすると背中が重いような。
ブースターはやっぱり重かったかなと振り向くと、大気圏突破酔いしたナオキが口元を押さえて今にも吐きそうな顔をした。
「アイチーー、ゲロ袋あるか・・」
「ごめん、酔い止めなら・・・って!!なんで、行きだけ頼んだはずじゃ・・」
突破するにはナオキの力を貸してくれと頼んだが、一緒に来てほしいなど頼まなかった。
これは完全にアイチの独断で、同盟を組んでいる光定にも、櫂にも誰にも相談の一つもせずに
レオンを助けたいという考え一つで、動いたのに。
「抜け駆けはさせないぜ、お前一人戦う気だったのかよ!!」
「ナオキ君・・でも危険すぎるよ」
「それはお前も同じだろうが、もうちょっと自分を大切にしろよ。
絶対に地上に帰ったら怒られるぞー、俺もだけど」
確かに、エミにも怒られるし、もっとどでかい雷を落すのは櫂だ。
今からゴムカッパで買おうかと雷対策を取ろうかとも考えた・・・・・・無事に帰れれば。
「かつて世界を統一させようとしていた海の覇者の姿を当時の先導者がイメージして作り上げたユニットカード
アクアフォース最強と言われた蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストローム」
近くには気配ないが、あちらはアイチ達が来たことに気付いているだろう。
海の変わりに宇宙を支配し、世界を虚無に染めようとしている。
「俺は、そいつらに対抗できるドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン“THE BLOOD”を使えるんだ。
行こうぜ、アイチ。世の中そう簡単に進まねぇってこと、わからせてやろうぜ!!」
「うん!」
アイチに続いて、ナオキが後ろについて宇宙を駆けていく。
惑星の何処かにグローリー・メイルストロームはいるはずだ、早く魂を取り戻さないと
いつまでも皆の力でレオンの身体を生きた状態で保たせることは、戦っていた後には相当辛い。
(地上は大丈夫、櫂君やレンさんがいるんだから・・僕達は・・・・)
真下の惑星を見る、何処がドレッドノート王国がわからない。
こんなことならもっと世界地図をしっかりと暗記しておけばよかった。
「アイチ、いたぞ!!」
ナオキの指差す先にグローリー・メイルストロームが、口から吐息と共に光を吐いて地上を攻撃している。
こちらに気付いて、それを止めるとゆっくりと顔を上げて不気味な青い目で二人を捉える。
「おおっ・・・こっち見やがった・・・きやがれっ・・・!!」
大剣を構えるナオキと、アイチもプラチナエイゼルにライドし、グローリー・メイルストロームと宇宙空間で対峙する。
空で、まるで雷鳴が轟くように激しい光のぶつかり合いを地上に残された全員が固唾を飲んで見守る。
さすがに宇宙空間まで、援護にもいけないしアイチはレオンのことを頼むと託したからには放棄もできず
心配そうにジリアンも、シャーリーンもレオンを見ている。
「おい、櫂も・・・あれ?」
三和がさっきまでいた櫂がいないことを、上の戦闘に気を取られている間に姿がないことに気付いた。
さらにレンまでいつの間にかいない、彼らが行く場所は一つだけ。
(王様二人揃って何やってんだか、まぁ・・俺でもそうしたけどな)
珍しく真顔で三和は空を見上げた。
そっちにあいつらが行ったぞと、心の中でアイチに伝えるかのように。
「“THE BLOOD”!!」
「プラチナエイゼル!!」
「「アルティメットブレイク!!」」
金色の二つの光が、一つとなりグローリー・メイルストロームに向かって放たれるが、水色の壁に弾かれてしまう。
まだ力が足りないというのかと、さすがに二人も息が荒い。
「あいつ、マジつええよっ・・アイチやばいぜ」
「そうだね、でも負けるわけにはいかない・・・よね!」
笑う余裕などないのに、アイチもナオキも笑っている。
宇宙空間は重力がなく、グローリー・メイルストロームは背中の羽が外れるとビームを発射しつつ、八方から攻撃してきた。
「光輪の盾よ!!」
炎のような色をした盾でガードするが、前方だけしかガードしておらず背後から攻撃されるが
ナオキがアイチを抱きしめると、攻撃から守ってくれた。
背中から、煙が上がりナオキは痛みで顔を歪ませる。
「ナオキ君!!」
「俺は頑丈な方だ・・心配すんなっ・・・!!」
後ろもすぐにガードしたが、ナオキは自らのヒールトリガーを使うが長期戦はまずい。
虚無には強いが戦いに長けているわけではないアイチは、余裕が感じられるグローリー・メイルストロームを睨むと
惑星から、巨大な炎の柱がグローリー・メイルストロームに向かって、背中に直撃、背中の羽の一部が燃える。
「あれは・・・」
惑星からくる、紅い光と黒い光。
こちらに向かってきていると、「あっ!!あいつらだ!」とナオキは失礼ながら指を刺す。
櫂とレンが、大気圏を突破してきて助けにきてくれた。
だが櫂は物凄く怒っているような顔をして、助けにきたのか叱りにきたのかわからない。
予想通り、アイチ達の元へ来るなり。
「どうして、単独で宇宙になんて来たんだ!!しかもこんな奴だけに本当のことを言って」
「こんなってなんだよ!!俺か??」
「だって力が足りなくて・・炎と雷じゃ、やっぱりナオキ君の方がいいかなーって・・電気だし」
「抜け駆けはずるいですよ〜、アイチ君」
「どうして俺に言わなかった・・・・!!」
「・・・・ごめんなさい」
本気で心配したのだと、此処でペレノアにライドしていたら、ぺしゃんと可愛く耳が垂れていたであろう。
重く溜息をすると、グローリー・メイルストロームと向かい合った。
「さっさと倒して帰るぞ」
剣を構える櫂、そしてレン。
「レオン君の魂も一緒だよ」
きっとグローリー・メイルストロームの体内のいる。
最初に攻撃をしたのは櫂だった、八方から攻撃をしてくるが無重力を逆に利用し、レンも余裕で交している。
ナオキも負けじと、巨大な雷を叩きこむようにして撃ち放つ。
星空の中、戦う彼らを地上に残されたミサキ達は見守るしかない。旗艦は島に到着するとアリ達も加わり
レオンの命を繋いでくれている、アイチが戦う意味を失わせないために。
『おのれっ・・・アイチ・先導・ユナイテッド・サンクチュアリ!!
貴様さえいなければ、虚無の力で世界を支配できたものを!!』
虚無に操られていたレンを救ったことで最大の標的にとしたが、アイチには沢山の仲間がいて、守り・守られていた。
忌々しいそうにアイチに青い色をした爪を伸ばすが、櫂の剣に切られる。
「手は出さないぞ・・・!!」
緑の目は光よりも眩しく、炎よりも熱い色をしている。
そのまま、グローリー・メイルストロームの胸に突き刺すと傷口から虚無が黒い靄となって漏れ始めた。
「これが仲間の力。みんなが互いを支え合い!!
信じる気持ちを一つにすれば、そこに生まれるのが本当の力、スピリット・ユナイト・プラチナム!!」
その瞬間、マジェスティ・ロードブラスターにスペリオルライドしたかのような大人が垣間見えた。
さらに大剣を深く胸に突き刺すと、黒い靄と一緒に小さな光が今にも消えそうに目の前に現れると
それを優しく掴むと、アイチは自分の胸にしまうようにして取り込んむと
金色の輪がグローリー・メイルストロームを包んで、中の汚れたドラゴンを浄化。
「虚無よ!!光の先導者の名の下に命じる!
蒼嵐覇竜 グローリー・メイルストロームより、出ていけ!!!!」
虚無は完全に、グローリー・メイルストロームから抜け出し、カードに戻る。
しかし、憑りついていたのは本体の一部、それを消したに過ぎない。
どうにか倒せたと、レン達もアイチに近づいてきた。
「平気なのか、まだ虚無が憑りついているんじゃ・・」
「もう気配はないようですね、アイチ君の攻撃は虚無にもっとも有効ですから・・さぁ・・帰りましょうか」
レンの見つめる先には、アイチ達の住む惑星が。
青い水晶玉のようで、とても綺麗で、星の姿を一生を忘れることはないだろう。
無重力に従って、青い髪が優しく揺れていく。
ナオキも初めてみる己の住む惑星をしばし見つめていると、櫂は隣にいるアイチの手にさりげなく触れると
答えるようにアイチも櫂の手に指を絡めるようにして繋いでいた。
まるで花火を、一緒に見ていた時のような。
「降りてきたーーー!」
4人の生還に、地上にいたカムイ達が大きく手を振って迎えてくれた。
アイチは櫂に支えられながら、まるでエスコートしているようだが、当人達は当たり前のように地上へ降りる。
レオンへと近づくと、光定が冷や汗を流しつつ・・力を与えているが全員の力で此処まで繋いでいたがもう限界だ。
「・・・ありがとうございます、光定さん」
「僕でも同じことをしたと思うよ、アイチ君。よく決断したね」
安心すると、眩暈がしたのか身体がよろめくとガイとユリが体を支える。
そしてアイチは横になったレオンの身体に触れると、何故か恥ずかしそうに頬を染めた。
「あのっ・・・皆さん、何処か向いててもらっていいですか?」
『は?』
レオンに魂を戻すのに、どうして見てはいけないかと皆からそんな声が漏れる。
また妙なことを考えているのだと、櫂は意地でも向かないと三和が説得するも、絶対に体を動かしない。
「彼の顔色、悪くなってますよー」
レンの言葉に、これは人工呼吸の親戚だ、けっしてやましくないと言い聞かせ
アイチは皆の前でレオンにキスを、全員が息をするのも忘れるぐらいに固まる。
眠り姫(レオン)に王子(アイチ)がキスをし、レオンの頬に赤みが戻り
紫の瞳にも生気が戻り、何が起こったのかと一時記憶が混乱しているらしく、不思議そうな顔をしていた。
「レオン様ーーー!!」
ジリアンに抱きつかれ、大泣きされている。
シャーリーンも「よかった、よかったです」と泣いていた。
ホッとするアイチだが、怒りの気配を感じ、恐くて後ろを振り向けない。
『凶暴悪の竜皇帝』の凄まじい怒りが背中に痛いほど感じ、冷や汗が一気に流れる。
「・・・・・・・アイチ、お前にはあとで話がある」
「はひっ・・・!!」
同情したように、皆がアイチに溜息をつく。
体内に一時保管した魂を戻すためには、あの方法しかなかったのだと人助け!!
海で溺れた人のために行った人命救助だという櫂への説明は
次の日の夜まで、行われたという。