「ったく、情けない女ね。レン様の命令だから仕方なく助けてあげるわ」
聞き覚えのある声に、顔を上げるとそこにはアサカが立っていた。
いつの間にか、テツまでいる。いつものように目を閉じ、何を考えているかさっぱりわからない。

「僕の次はアイチ君のところですか、単純な行動パターンで安心しました。
そうでなければアイチ君のところに駆けつけられませんでしたし」

笑っているレン、しかし心は怒りを感じ、以前のように歪んだものは感じないがレンは怒っている。
アイチを殺そうとしたレオンに対して。

「確かに、俺もそう思ったが『奴』の命令だ」
その言葉に、アイチもレンも反応する。

「奴・・誰のことでしょう、詳しく教えてください」
赤いレンの髪が揺れる、背後にはファントム・ブラスター・ドラゴンが現れる。
恐怖で身を振るえさせるように吠える竜、レオンは顔色一つ変えずに見ていた。

「さぁな、知りたければ自分で調べるがいい・・もっとも忘却の彼方までいかなければ無理だろうけどな」
レオンはそう言うと、ドラゴンに乗って去っていく。
夜の闇へと消える彼らを追跡するのは不可能と、肩を竦める。

アイチを抱えながら、地上へと降りていく。
トンッと地上へと降りるとエミ達が駆けつけてきてくれた。

「アイチ、大丈夫!!怪我はしてない」
「平気だよ、・・・・・・・・・・・あの、そろそろ下してもらえますか?」

マジェスティも解除したいのだけどと、恥ずかしそうにレンに頼むがレンは笑顔で。

「僕は大丈夫ですよ、アイチ君は羽みたいに軽いですから」
空中では胸に引き寄せるように抱きしめ、地上に降りたらお姫様抱っこされて恥ずかしすぎて
顔を上げられずはっきりと断れずにいるアイチを置いて、レンは動く。

「では、アサカ。アイチ君の荷物を」
「はっ!!」
返事をするのは同時に、素早く移動し
アイチの部屋から身の回りのモノをトランクに詰めていく、それをテツが馬車に積めていく。

「相変わらず、色気のない下着ばかり」と、同性として許させなつつも、勝手に荷造り。

「あっ・・あのっ・・これって・・」
「また狙われるかもしれないので、では参りましょうかvv」
最後にアイチを馬車に詰めて、馬車は出発。
後ろの窓から半泣きするアイチの姿に、全員があまりの速さに事が動いたので、唖然としたまま止めることもできない。

「アッ・・・アイチお姉さんがまた、レンに拉致されたーーーー!!」
カムイの声が、空に響いた。









馬車の中で、夕食を食べつつ、レンからレオンとの会話の詳細を聞いていた。
サンドイッチを食べながら、レンはアイチに自分のところにも彼らが来て、大変だったと説明。

「僕のところにもあいつら来て大変だったんですよーー」
「どうして・・僕ら二人のところに・・」

「先導者、だからなのだろうが。彼らは・・気になるクランも使っていた」
テツは目を細めながら、レオンの言っていたアクアフォースのユニット達のことを思い出していた。
見たこともないクラン、伝説のクランだと彼らは言っていたが確かに聞いたことのないクラン。

レンが襲われたのは、二日前。
書類が山の様に積まれた机に座り込む毎日、昔の自分のような人間を生み出してはいけないと
一から国を作ろうと頑張る日々、いつものテツならようやく王としての自覚が湧いたと喜ぶべきなのだが
睡眠時間が毎日1時間では、さすがに体調を心配したのか。

「いい加減に休め」
などと、言ってきた。

「今は仕事したい気分なので、大丈夫です。僕は強いですから」
「知っている、だがなお前のやり方を良く思っていない人間もいるのを忘れるな」
己の私欲と、プライドしか考えていない連中がレンの命を狙っていることをテツは調べがついている。
今、政治のことで手がいっぱいで疲労しているレンに奴らが放っておくはずがない。

「いざとなれば、戻ってきたフーファイターの特殊部隊の『FFBS』も働いてくれているし、アサカもテツも・・いますから」
敗北は一度たりとも許されない、それがレンが王になるために最初に学んだ歪んだ帝王学。

しかしテツはアイチに負けたレンに責めることもなく、以前と変わらず傍にいてくれる。

気になったレンはその理由を、おやつのリンゴを可愛くウサギ耳にカットしているテツに聞いてみた。

「約束したからだ、傍にいると」

ただ一言、その言葉だけで十分だった。
幼い頃の約束を、テツは今でも覚えていて守ってくれていた事が、嬉しかった。

始め、別の世界にいるかのような挨拶をされて、レンはテツに対し、何かしらの策略でもあるのかと考えていたが
そう思っていたのはレンだけだったのだと、あの時見えなかったものがアイチのおかげで見えた。


「レン様、少しお休みになられた方がよろしいかと」
心配そうにアサカが話かけると、レンは子供が見せるような純真な笑顔で。

「いいえ、心配ご無用です。でもアサカの淹れた濃い目で、お砂糖たっぷりのコーヒーが飲みたいです」
あの冷酷なアサカが、まるで恋する乙女のような頬を紅くして
「ただいま、お持ちいたします!!」と照れるように部屋から出ていく。

「アサカの淹れたコーヒーを飲んでちょっとだけ仕事したら、休みますよ」
テツの手の書類をくださいと言われ、溜息をついて「約束だぞ」と言って手渡す。
書類がレンの指に触れた瞬間、執務室が吹っ飛んだ。


「何事だ!!」
城に鳴り響くサイレン、美童は兵士達を指示し、すぐにレンの部屋へと向かう。
見上げるようにして、白い軍服を風になびかせているのはアイチにところにも来たレオンだった。

「やりましたね!!レオン様!」
水色の髪の少女が嬉しそうに、言っているがレオンは険しい顔で煙に包まれたレンの執務室を見ていた。

「フッ・・やはりか」
テツのデスアンカーによって、レンは守られ無傷だった。
しかし、テツの横腹は紅く染まっておりそれはレンの髪のような色をしている。


「・・・テツ」
「心配ない、お前は下がっていろ!!」
冷や汗を流しつつも、王を守るためにカードを構える。

「レン様!!」
ミストレス・ハリケーンにライドした、アサカがムチを地面に叩きつける。
獣をその眼だけで、従えさせるかのような業腹の感情が読めた。

「あーあー、書類を再発行するのが、どれくらい大変か、知っているんですか?君達」
そんなアサカよりも、冷たく見下ろすレンに、レオンの近くにいる少女は怯えるように体を震えさせる。
これが三強だと、ブラスター・ダークにライドし、剣を構える。

「この紙切れは、これからのお前の未来だ。
貴様が闇に飲み込まれていれば、『奴』に俺が力を貸すこともなかっただろうに」
力に溺れ、他人を見下し、命を命と思わない男に。
つまりレンは、アイチが救わなければ自分でも気づかずに利用されていたということになる。

「・・・その話詳しく、聞かせていただきましょうか?」
目を細めて、笑う・・・が、テツとアサカも本気の戦闘モードに入っている。
今までのことが裏から誰かが、操っていたことを聞いて、冷静でいられるはずがない。

城近くで巨大な爆発が起きる、それは新月の夜には眩しすぎるぐらいの照明となるぐらいのものだったという。




馬車に乗りながら、アイチはそれを聞いて・・言葉がでなかった。
レンの性格が豹変し、他人に対し冷徹だったのは、何者かの仕業であったのだと。

「・・・攻撃が強すぎるはずだ」
(あの人達が言っていた『奴』って、何者なんだろう、相当な力量のレンさんをも操るなんて・・)

ロイパラのカードを抱きしめるアイチ、黒ずんだカードを見てレンはすぐにアイチの考えていることがわかった。
伝説のアクアフォースとはいえ、此処までユニット達が力を消耗するのは異常である。

つまり、黒幕の力もプラスされたのだと。

「しばらくすれば回復するさ、お前は光の先導者だ」
目を閉じながら、テツはロイパラを心配するアイチに温かい言葉を言うと「あーっ、テツずるいです」と頬を膨らませて
可愛らしく怒るレンに、アサカは「レン様っ・・・可愛い」と鼻血が出そうになりハンカチで鼻を押さえる。

「でも、テツさん。怪我をしたそうですけど・・」
「ああ、20針縫った」

「にっ・・・!!」
真っ青になるアイチ、なのに普段と変わらず動いているなんてと・・驚くアイチ。

「僕の護衛はいいから、休んでいろって言っているんですけど聞かないですよ」
何故かヒールトリガーも効かず、自然に治癒されるのを持つしかないとレンに聞き、以前櫂がレンに大怪我を負わされて
治せなかったことを思い出し、やはりレンは利用されてかけていたのだと確信する。

「ところで、僕達は何処に向かっているんですか?」
荷物を詰めて、安全なところにでもいくのだろうかと、今更尋ねると。

「ローマ帝王国です、ユニットで移動するのは危険なので地道に馬車で、そこで櫂も待っています」
「櫂君・・!!」
婚約したことを思い出し、会ったらどう挨拶すればいいかと悩むが、今の状況をよく考えると
左右前にはかつての敵、しかもアサカはレンには笑顔で、アイチには殺さんばかりの視線を向けている。

(どうしよう・・このまま地獄地下一丁目とかっ・・)

『よくも僕に屈辱を与えてくれましたね!!毎食激辛ラーメンの刑です!!』
テツが、真っ赤なラーメンを毎食出して、隣で冷たいアイスを見せつけるようなアサカが食べている。
甘いものは大好きなアイチは逆に、調味料を使った辛い食べ物が苦手でイメージしただけで喉が渇いてきた。

(どうしようどうしよう・・今、使えるカードはほとんどないし・・・)
ぐるぐる一人で、驚いたり、ときめいたり、真っ青になったり面白いなぁとレンはアイチを見ていた。
かつての敵に囲まれてアイチは一人、何かあったらどうしようと悩んでいたのは



一時間だけだった。




普段以上に心配をし、考えすぎたアイチはうたた寝を始めた。
隣にいるテツに身を預けて、気持ちよさそうに眠るアイチ。

本当にレンを倒したのか、戦闘時とは別人のようだが人を温かな気持ちにさせて、こちらも悪くないと穏やかに微笑む。

「あーっ、ずるいです。テツ。帝王の命令ですっ!席を替わりなさい!!」
「だが、動けば先導は目を覚ますぞ」

何やら、寝言で「僕は甘党です・・」とか言っているアイチ。
起こしてしまうのは可哀相だと、こんなとこならアイチの隣に座ればよかったと今更後悔。


しかし、馬車に乗ってのんびりローマ帝王国にいくわけにもいかず、結局ユニットを使って移動することに。

「スピードを速めるぞ」
テツはカードを取り出し、ユニットを呼び出す。
黒い羽をもつ青年が現れ、一気に加速していく。

馬車の中にいるのに重力で潰されそうなり、アイチとアサカの間にいる
レンの服の袖に捕まって無重力の感覚に目をきつく瞑り、耐えるがレンは楽しんでいる、御者は泡を吹いて失神していた。







それが数分間続いた後、ローマ帝王国に到着。

古代ローマのようで、中世的な建物の多い国。
光定達の故郷でもある国だ。



















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