城に続く階段を歩いていると、アカデミーにいる時とは違う王族の服を纏った光定が
凛々しい騎士服を着たユリとガイと共に、出迎えてくれた。

「アイチ君、アカデミーが襲撃されたと聞いたけどよかった・・無事みたいだね」
「光定さんっ」
嬉しそうに、駆け寄る。
ようやく味方に会えたと、喜ぶ。

「ほぼ主要の王達は揃っている、案内するよ」
「僕も・・ですか?」
王でもない、ロイパラ志望のヴァンガードの正式なクランもないのにと驚くアイチ。

「君にもぜひ参加してもらいたいんだ、光の先導者としても」
そう言われては参加しなければと、安心したと思ったら今度は緊張してきた。
大抵会議室の外で三和と一緒に待っていることが多く、参加することになろうとは。

「あっ、櫂だ」
「ええっ!!」
レンの指差す先には、正装した櫂と三和がいた。
人良さそうに手を振る三和と、相変わらず無表情の櫂。

「おーっ、アイチ。無事だったかー」
「はっ・・・はい・・・あの櫂君・・・」

もじもじっと、恥ずかしそうに話しかけるアイチ。
婚約=結婚という公式が、かつて生活水準の高かったアイチの頭にはある。

「ああ、お久しぶりだな」
予想していたとは、あまりにも違う櫂の反応にアイチの感情は一気に冷え込む。
櫂はアイチと本当に虫よけのために、婚約したのだと現実を思い知らせて、顔を俯かせる。

「おいー、お前、仮にも婚約者だろうが」
肘で櫂を突っつく三和、「フンッ」というだけで特別それ以上のことは言わなかった。
いつものことのはずなのに、この時の櫂の態度にアイチはちょっぴり傷く姿に
櫂ももっと別の言葉を言えばよかったが皆の手前、いつものような反応をするしかなかった。

年頃の男女は、複雑だ。


光定とレン、櫂が話をしながら廊下を歩き、一番最後を沈んだように顔をして歩くアイチ。

その様子をユリとテツがちらりと見る、やっぱり年頃の女の子なのだと
どうにか元気づけようかと考えているとアイチの前の扉が突然開く。

ぐいっと、誰かがアイチの腕を引っ張る。

「えっ・・・ええっ!」
突然引きずりこまれたアイチに、全員が後ろを振り向く。
アイチが完全に姿が見えなくなると、ドアからシズカが顔を出す。

「これからお色直ししますので、後から行きます」
というと、パタンッと扉が閉る。
シズカは三和にお願いして今回特別に同行してきたのだ、いきなりのことに全員が「お色直し?」と固まっていた。

室内には化粧品に、壁には新調の礼服。

「貴方、クレイアカデミーの制服で出るつもりなの?皆ピシッと決めているのに」
「うっ・・・!!」
言われて初めて理解する、光定達だって礼服でレン達も、ちゃんとした服を着ているのにアイチだけだ。
アカデミー制服というのまずい、ただの身内の話し合いならともかく、各国の王が集まり場で櫂に恥をかかせてしまう。

アサカが荷造りしてくれた荷物には、正装なんてもの一着もないし、アカデミーにそんなもの最初から持ってきていない。

「なので、お母さんがアイチに服をプレゼントしちゃいます!!」
バサッと新調した礼服に、アイチの気持ちは急上昇。
沈んでいた気持ちは、一気に空へと舞い上がっていく。



服と下着まで脱いで、着替えると青い髪をシズカが丁寧に櫛解かしていく。
押さえめに化粧までして、まるでシンデレラのような気持ちで。

「大きくなったわね・・アイチ」
「母さん・・・」
真面目な声質の母に、アイチの頭に隠れてシズカの顔は見えない。
ついこの間まで、毎日泣いて帰ってきて、三和と櫂に守られていたアイチが今では、誰かを守って

その温かで優しい純真な心で、人を救っているだなんて誰が想像しただろうか。

「でも、勢い余って怪我はしないで・・母さんはいつでもエミとお父さん、そして貴方を愛しているのよ」
後ろからシズカはアイチを抱きしめてくれた。
いつだってアイチを応援してくれたシズカの手が僅かに震えている。
これからも戦い続けるアイチを心配していないはずないが、アイチが悩んで決めた事を

反対などできなかった。



「ありがとう、お母さん。僕もお母さんと、お父さん、エミが大好きだよっ」



覆いかぶさるように抱きしめるシズカの手に、小さなアイチの手が重なる。













会議場には、王達が集まっており、櫂はジュンらとも挨拶を無事交していた。
軽く着替え終わったレン達が、話しかけてくる。

「アイチ君は、まだですか?」
「仕方がありません、女性はいろいろと時間がかかるのですから」
ついでに、アイチはお子様の部類だから、化粧で誤魔化すのに時間がかかるのだと嫌味を吐く。
絶対に嫉妬だと、とレンと櫂以外苦笑いしてした。

「そうですかー、アイチ君も女の子ですからね、でもそろそろ来ないと」


ガチャリと、扉が開いた。
出入口付近にいた王の一人が、見た瞬間に口を閉じるのを忘れて見惚れていた。
ブーツ特有に靴音を発しながら櫂達の元へと、一人の少女が・・・女性が近づいていく。

櫂はこちらに背を向けて、振り向く様子はないが向かい合うように立っている三和は、驚いていた。
よくみれば櫂以外、全員が三和と同じ反応をしている。

「櫂君、お待たせ」
「遅いぞ、アイチ・・・」
いつものような無表情で、振り向いた櫂の目は見開いた。
まるでマジェスティ・ロードブラスターにスペリオルライドしたアイチがいるかのようだ。

襟元は白と黒、青色の背広に下はロングスカート、靴は長めのブーツという大人っぽい服装に。
元々アイチはファッションに無知で、シズカとエミがアイチの服を大抵用意してくれているのが現実で
三和と櫂に最初に会った時も、男みたいな服装を動きやすいからとしていたぐらいだ。

「あのっ・・変ですか?」
誰もアイチの服の感想を言わないので、ピンクのルージュが薄く塗られた唇が可愛く動く。
すると金縛りが解けたような、皆がアイチに集まり各自の感想を述べる。

「凛々しいわよっ、アイチ君」
「見違えましたよ」
「うん、騎士って感じだよ」
「アイチ君、素敵ですよ」

皆に褒められて、照れているアイチ。
その様子を遠目で櫂は見ていると、悪戯を思いついた子供のように笑いながら三和が近づいていく。

「惚れ直したか?」
「バカ言え、服のせいだろう?」
たかが、礼服ごときでと目を閉じる櫂。
表向きそんなことを言っているが内心、三和の予想通りだろう。

(女の子は知らない間に、綺麗になっていくんだぜ。さっさとアイチの手を握らないと)

目を細め、櫂を見る。






俺が、奪うぞ。














全員が集まり、席に座る。
アイチは緊張しながら、櫂の右隣に腰掛けた。

室内が突然暗くなり、円のように並べられた机の中央には電子映像が映し出される。
先の戦争から間もないというのに、謎の勢力に襲撃を受けたという国の映像だ。

「被害を受けたのは、国民ではなく、王のみであり、兵士の重傷者はいるものの死者はいない」
光定は次期王として、皆に説明をしていく。

映し出されるのは、被害を受けた建物。
そして国が隠していた大スキャンダルを国民に暴露し、国の舵を取っていた王族は国を追われたという。

「・・・此処までならただの義賊の仕業だろうと考えていたが闇、光の先導者が同一人物に狙われたとなれば話は別だ」
レンとアイチが襲撃されたと聞いて、全員がざわめく。
世界を征服しようとしていたレンに復讐しようとする輩の可能性はあるが
世界を救った英雄のアイチが狙われるというのはおかしい。

自分都合の正義の鉄槌を下しているにしても、筋が通らず何かしらの巨大な思惑が動いていると、櫂も考えている。

「伝説のアクアフォース、襲われた国に封じられているとユリからの報告がある。まだ・・全て揃ってはいないと予想したい。
あまりにも古すぎるて、全てのカードが封じている場所が特定し

これ以上奴らが力をつける前に阻止をしなければならない!」

しかも、黒幕の力のプラスされ、レンを倒したアイチでもカードに大ダメージを負ったほどだ。
各国のヴァンガード達で守り切れるとは、考えにくい。

「閉国学園国家『宮地学園』に強力なアクアフォースのユニットカードがあるという情報があり
僕もカード捜索に協力を要請したが

拒否をされてしまった、外の世界のことは我々には関係と・・」

王からは「何をバカなことを!!」と机を叩いたり、大声を発したりして、空気の流れにアイチは戸惑っていると。

「精鋭の人間を学園に送り調査をすることが決まった、皆様は引き続きアクアフォースのカード捜索に力をお貸しください!!」
高らかに、力強く彼らの怒りの感情を押さえるようにして、光定は会議の舵取りをする。
その言葉に王達も、カード探しが先決だと動き始めたが

精鋭の人間というのは、ユリとガイか・・・もっと誰かいただたろうかと光定に休憩でもしないかと誘われる。

何故か、レン達も一緒に。



セイロン茶と、チェック柄のクッキーを手にしながら光定の談笑でもするのかと予想していたが。



「アイチ君、宮地に潜入してアクアフォース捜索に力を貸してくれないかと?」
口にくわえていたクッキーが、膝に落ちる。
光定の言う、精鋭がアイチのことを示していたなんて、それ以前に


閉国学園と言われた場所に、潜入することが。



「えぇーーーっ!!」
一番驚いた。



















inserted by FC2 system