青い空、青い海の中、中型の白い一隻の船が進んでいく。
船の船首にアイチは立っている、何処を見ても海ばかりで島らしいものは見えていない。


一昨日、光定から宮地に潜入してアクアフォースのカード捜索をしてと言われ、最初は戸惑ったが
これも先導者の使命と気持ちを切り替えることに、デッキ内にいたレンが後ろから話しかけてくる。

「外は冷えますよ、中に入りましょう」
「そうですね」

振り返り、船内へと戻ろうとすると濡れた床に足を取られて転びそうになる。

「あっ!」
「アイチ君!」

咄嗟にレンが手を伸ばす、転倒はさけられたが問題は大抵だ。
世の女性達なら悲鳴を上げて失神してしまいそうな、倒れかけた体は片腕で支えられ、もう片方の手でアイチの手を握り

顔はあと少しでキスできそうなほど、近い。

「あっ・・あのぉ・・ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」

(もうそろそろ、離してほしいんだけど・・・)
レンはアイチの顔を観察するかのように、見つめてきて困り顔で激しくなる心臓の鼓動にショック死しそうでいると
誰かがアイチをレンから救った。

「お前ら、何をやっているんだ」
二の腕を掴み、地面にまっすぐ立たせてくれたのは櫂だった。
彼らの服は、中流階級の私服であり、テツが用意したもので、これから三人とテツ・アサカを加えて宮地に潜入する。




最初から、先導者の二人を宮路に潜入させたわけではなかった。
腕の立つ人間を光定はすでに送り込んだが、その全員と連絡が取れず、宮地から出た報告もないとアイチは聞かされた。

「捕まったか、殺されたか・・わからないがカードのことなら君達の方が何倍も感じ取る感覚が優れているからね」
ヴァンガードとして優秀でも、ユニットに関しては先導者の方がわかる。
実はレンを宮地に潜入させようとしていたが、宮地そのものを「めんどうです」とか言って
島ごと破壊フリーダムすぎな性格で、それならまだ、ストッパーにもなってくれるアイチもつけた方がいいとユリの提案だ。

「じゃあ、僕達(テツとアサカもいるのに)二人だけの潜入捜査ということですね」
アイチの身体引き寄せ、嬉しそうに学校なんて初めてなんですよと子供みたいにはしゃぐレン。
事の重要性がわかっていないように、笑っているレンだが。


「俺も行く」
「はぁ?櫂!!」


二人っきりにさせるのを、許せない人間がいた。
アイチが潜入捜査なんて、危険すぎるし、嘘のつけないタイプに人間にスパイ活動なんて無理で危険だ。
レンも、テツはともかくアサカはレン様のいうことは全部正しいとか神の様に信仰しているし

こんなメンバーではぐれユニット討伐の方がまだ、いくらかわかりやすくてマシだ。

「政務は、どうするんだよ!!」
「重要書類以外はお前に権限を移す、お前ならできる・・・だろう」
信頼しているという証、なのだろうか。

世界の危機かもしれない事態に、一国の王が動いてもおかしくないが
本音はアイチレンを二人っきりにさせたくないのだろう。

「えーーっ、お邪魔虫ですよ。櫂はうるさいし」
「黙れ、それはお前だろう。お前がそんなんだから俺も行くんだろうが」
文句を言うレンに、櫂は目を吊り上げて睨んできた。
内心「そろそろアイチから離れろ」とか、火花のようなものが三和とテツは容易にイメージできる。



こうして、レンが暴走しないようにストッパーのアイチと、そのアイチのお守りの櫂。
保護者テツと、お世話役アサカの5人でテツの運転する船で海を進んでいく。

椅子に座り、アサカは渋々アイチにも紅茶をくれた。
それを飲みながら、アイチはシズカから渡された新しいクラン

ゴールドパラディンのカードを見つめていた。




ロイヤルパラディンは、暫く間使えないと宝石箱の中に入れて、念のため持ってきてはいるが
戦わなければならなくなった時、役に立たないと出発前にシズカが金色の箱に入った

アイチも始めてみるカードを差し出してきた。

「これは?」
少し離れたところで櫂とレン達が、母娘の様子を見守っている。
シズカの細く綺麗な手で、アイチにデッキを渡す。

「先導家に伝わる、もう一つの騎士のクラン・ゴールドパラディンというの。
とても珍しいし、ほどんど扱えるヴァンガードはいないと言われているの」
その名の通り、黄金の鎧を纏った騎士が描かれている。
今のアイチなら使えるかもしれないと持ってきてくれた、シズカがきた本当の理由はこれを渡すため。

「光の先導者となった、アイチなら・・」
今、ロイヤルパラディンは使えない。
カードを多量に生み出すほどの体力はアイチにはない、ゆっくりと手を伸ばすし、カードを掴んだ瞬間。



頭の中に、一気に流れ込むカードの情報。
キインッと脳の奥がオーバーヒートしたかのような痛みに、立っていられず、床に座り込む。



「アイチ・・・!」
床に散らばるゴールドパラディンのカード、後ろにいた櫂達が駆けつけて、アイチの身体を支える。
あれから体力限界を計り、前の様に倒れる回数は激減し、倒れるのも久しぶりだ。

「カードの情報が一気に入ってきたんでしょうね。もう休んだ方がいいですよ」
同じ先導者のレンはアイチがカードに触れただけで倒れた原因を冷静に分析し
痛みは治まったが顔色は悪く、冷や汗も流している。

「でも・・出発の準備とか」
荷造りはできているが、他にもやることがと支えられながら立とうとするアイチを櫂は横抱きにして運び出した。

「ちょっ・・櫂君!」
そのまま、誰にも何も言わずに部屋を出る。
休憩室代わりに光定に借りている部屋の一つに入ると、ベットに下す。

「お前は寝てろ、俺達でやる」
「でもっ・・・!!」

一人寝ているなんてできない、サボっているみたいて罪悪感でするからなのだろうが
それでも櫂はアイチの意見を尊重する気はなかった。

「別にお前でなけくてもできることだ。お前の仕事は休息だ」
キツメの口調でアイチでなくてもと言われては、休むしかない。

なんだか先導者としての力だけが、アイチの必要性なような気がして
凹んでいると櫂はアイチの頭を大きく男らしい手で撫でる。

「できることだけをすればいい、無理なことは他人に任せろ」
「・・・・・うん」

横になってしまえば、睡魔が襲ってきて、何度も起きていようとしたが、瞼は青い目を隠し
やがて規則正しい呼吸が聞こえ、眠ってしまう。

顔にかかる青い髪を指で退し、完全に眠ったと確認すると身を乗り出し、ピンクのルージュに塗られた唇にキスをする。

そしてレースカーテンを閉めると部屋の外へ出ると出入口で三和が待っていた。



「まったく相変わらず言葉が足りないし、愛情表現が苦手だなぁ・・・」
アイチの身体が世界の危機よりも心配だって、言えばいいのにと溜息を吐く。
そんな恥ずかしいセリフ、子供の時ならまだしも、今は表に感情を出すことなど滅多にない。

「・・・・櫂、口にピンクのルージュがついているぞ」
慌てて袖で荒っぽく拭うが、袖には口紅がついている様子はない、それを三和は肩を振るえて笑いを堪えている。

騙された!!
もしここが、国内であったのなら今頃、ジ・エンドで三和ごと城をブッ飛ばしているだろう。







アイチの代わりに、必要な情報と手続きは櫂達がこなし、回復しておいた時には出発するのみとなっていた。
港まで見送りにきてくれた光定、明日戴冠式で忙しいというのに、その合間にわざわざ、シズカも加えきてくれた。

「僕らが今度は見送る側になってしまったか。
気を付けて危険だと思ったら戻ってきてもかまわない。

先導者の前に君は、僕の自慢の生徒で、皆の大切な友人なのだからね」

「光定さん・・・」
ぽんっと、優しい手でアイチの頭を撫でていると嫉妬したレンが間に入りこんで。

「童貞のくせに生意気です」
「どっ・・!!」
絶句するし、光定はショックを受ける。
本当のことなので、言い返す言葉がないとユリとガイは米神を押さえていた。


「そろそろ出すぞ」
テツに言われ、最後にアイチが乗り込む。
港を離れる船、ローマ帝王国領海外に宮地はあるのだ、クレイアカデミーと学園都市だが
閉国と聞いて不安はあるが、櫂やレン達も一緒なら大丈夫だと



「行ってきます!」


光定達とシズカに力いっぱい手を振って、



















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