今でも思い出すだけで、苦しい、他人は誰も助けてくれなかった子供のころ。
一人で傷の手当をしている、家族にバレないように、わざと着込んで隠して、でも心が痛くて涙が止まらない。

「おい」

涙が濡れた瞳が振り向くと、ナオキがいた。




「お前、やっぱりあの先導なのか?」
「はっ・・・はひっ・・・!!」
緊張した声で返事をするアイチ、その後ろではバレたら即抹殺の構えをしている櫂達。
知らないところで死亡フラグの立っているナオキ、机の引き出しに入っていた紙で呼び出されたと皆に話したら

「僕の得意なことは、完全犯罪です」とか、ブラスター・ダークを構えた。
そんなレンを冷静になるように説得してとにかく話を聞こうと言うことで、中庭で二人っきり。

これでアイチが男装していなければ、青春の一ページに飾るにふさわしいナオキがアイチに告白しているようだ。

「お前、クァドリ・フォリオ皇国に住んでたんだろう。なんでこっちに?」
まさか櫂がヴァンガードとして認めてもらえないから、最初男装してクレイアカデミーに通っていて
そしたら先導者になって、レンと戦って倒して、三強に称えられるようなったとか絶対に言えないと言葉に迷っていると。

「いじめられてたんもんな、今でもそうなのか?」
「あっ・・・」
思い出したのはナオキが、一枚の絆創膏を差し出してくれた時のこと。
始めて他人に優しくされたようで、嬉しくて、絆創膏を渡すと恥ずかしそうにナオキは走り去った。

「そっか、お前も大変だったな」
確かに大変は大変だ、今もだけど。
でもあの後、櫂達と出会っていつもいじめっこから守ってくれて、今も守られてばかりでまったく成長していない。

「ううん、そんなとこは・・。ところで石田君はどうして此処に」
「なんか国内の身体調査でさ、俺は優秀なヴァンガードの才能があるって親が強引にさ」
国からの援助でタダで通ってはいるが、退屈でめんどうな日々。
大人になった時、楽もできると生活も楽だというが、何故親がそこまでヴァンガードの職業を薦めるかわからない。

「僕は全然、ロイヤルパラディンだって・・・」
腰のカードケースに触れる、この中には今ゴールドパラディンが入っている。
必要とはいえ、まったく別の種類のカードに戸惑い、未だにカードをちゃんと見ていない。

「まあ、なんだ・・困ったことがあったら・・・いえよ・・・」
照れるように頬を指で掻く姿に、櫂は内心苛立っていた。
「ありがとう」と、礼を言うアイチは照れているのか頬が赤くて、会話が聞こえなければ男女の告白シーンのよう。

「彼は昔のアイチ君しか知らないみたいですが・・・なんかムカつきますね・・」
今すぐ二人の間に割り込んで邪魔をしたいとレン、ついに我慢できなくなったのか突撃していくレンの後ろを歩いていく櫂。



どうやら、アイチの正体を知らないようだが、念のため三和とDSほどの大きさの相手の顔が映る通信機を使い
ナオキについて調べるように命じておいた、

数日後、学園都市に張られた妨害電波も届かない上空に、オーバーロードにライドした櫂がいた。
今は昼間、普通なら授業を受けている時間なのだけど

サボった。

『アイチの言うとおり、一か月ぐらいの超短期滞在記録が残っていた。父親の実家があるみたいでさ。
特別アイチと仲良かったっていう証言もないし、たった一回話したっていうのは本当らしいぜ、安心したか?』
「ただ、確認したかっただけだ」

三和の予言が的中したのかわからないが、ライバルかどうかわからないが伏兵が現れ、櫂は内心揺らいでいた。
性格は真逆で、バカ正直で、不良であると、櫂のクラスメイトの女子がべらべらと教えてくれたが
自分よりも先にアイチに声をかけたことに、顔には出さないが櫂は内心腹が立っている。

『伏兵現るってか、俺が婚約者だって言えないもんなー、まっ精々アイチが石田とかいう男に取られないように気をつけな』
にやけながら、手を振って通信を切る。
三和の頭に来るほどの態度からして、国は大丈夫だろう、問題はナオキとアクアフォースだ。





次は、櫂とアイチのクラスと合同戦闘模擬の訓練だ。

唯一、性別を偽っているアイチは隠れて着替えるため、一番遅く生徒達の集まり練習場へとやってきた。
全員がチャイナ服に似た赤いラインの入った黒の上着とズボンを着ている。
息を切らして練習場にやってきたアイチをナオキが話かけてきた。

「お前、着替えるの遅いぞ?なんで更衣室で着替えなかった?」
「えっ・・・えーーと」

女だからなんて言えず、ナオキと目を逸らしていると。

(いじめられた時のキズが残っているのか?)
勝手に理由をそう解釈させ、まだ始まっていないからと励ますナオキらを気位の高い同じクラスの男子が睨む。

クレイアカデミーよりも進んだ授業にもやっとついてきていて、一行動するに時間がかかっているアイチに
とろくて鈍く、見ているとイライラしてくるとナオキと二人で横並びになって歩いていると
彼らの一人がアイチの前に突然足を出してきた。

「あっ!!」
避ける間もなく、地面に転ぶ。
それをレンが見ていたのは、櫂と一緒に駆けつけてくれた。

「大丈夫か、先導?」
「うっ・・うん」
顔についた土をレンが優しく払ってあげて、立ち上がろうとすると膝に痛みが走る。
ズボンを捲ってみると膝から血が出ている、レンと櫂は目を細めた。

「おい、人の足にぶつかっておいて謝りもしないのか?」
出してきたのはそっちだろうと、ナオキが怒鳴ろうととしたがネガティブなアイチは自分が悪かったのだと頭を下げる。

「すいませんっ・・僕、ボーッとしていたから」
「まったく、お前ヴァンガードの才能ないんじゃねーのか?基礎からやり直してこいよ」
笑われて、悔しさよりも情けなさで頭がいっぱいで泣きそうになり、手は無意識にズボンを握りしめる。
怒鳴りながら「んだとぉっ!!」と噛みつくナオキの声を聞いて、教師が喧嘩未遂のところで止めに入ってきた。

「アイチ、傷の手当を」
櫂が保健室へ連れていこうとしたが、教師は同じクラスの人間に付き添うように生徒達を見渡すが
転ばせた生徒は上流階級の人間だったらしく、敵には回したくなかったのか誰も手を上げずにいたが。

「俺が行きます」
ナオキはただ一人、手を上げるとアイチに「手を貸そうか?」と話しかけながら付添っていく。
その後ろ姿をレンと櫂は見送り、見えなくなるのと本当の戦場に出撃するかのような目つきに変わる。

「レン」
「言わなくてもいいですよ、やることは一つですから」
殺意すらも感じる目で、模擬戦闘に参加する。







運悪く保険医はおらず、ナオキもヒール系ユニットはもっておらず、不器用な手つきで傷の手当をする。

「傷を洗い流して、次に消毒だよ。そこの薬品を」
「なんか、俺が手当されているみたいだな」
ナオキはアイチの指示で、傷の手当をしてくれているが、いじめられていた経験がこんなところで役に立つなんて複雑だ。

「しかし、あいつら・・戻ったら俺がやっつけてやる!!」
優秀で、強いんだぞとボクシング選手みたいな拳を振り上げるナオキに、手当の終えたアイチは一番の被害者にも関わらず。

「暴力はダメだよ」
「少しだけだって、ころしめるだけだって」
「それでもダメ」
「お前、怪我までさせられて・・相変わらずというか・・・へいへ・・・」




巨大な爆発が、模擬戦闘場で起きた。



「なっ・・なんだぁ??」
窓は防弾ガラス並みに固く、割れることはなかった、窓を開けると熱風だけで肌が突き刺さるように熱い。
ライド事故でも起きたのかと慌てるナオキに対し、アイチの顔色は何故か真っ青だ。


爆発の原因に、心当たりがあるようだ。



「つっ・・・強ぇ」
アイチを転ばせた男達が、数人倒れている。
模擬戦闘の相手にコテンパンにされたのだ、それはネハーレンにライドした櫂と、ナイトストームにライドしたレンだった。

「弱いですねぇ・・、本当に優秀なヴァンガードさんなんですか?基礎から学び直した方がよろしいかと」
「まったくだ」

燃え盛る炎を背後にする、彼の顔は屈強なヴァンカードも尻尾を巻いて逃げ出してしまいそうなほど
恐ろしく、怒りに満ちていて、冷たく細められた瞳を見ただけで全員失神。


「・・・・・・・・お前の友達、コワイというか・・頼もしいな・・・・」
多分、コワイ方が正解だろう。
消火しようにも、あまりの火力で戦闘場の床は巨大なクレーターができて、黒ずんだ土に暫く使用禁止になったとか。


引きつる顔で燃え上がる戦闘場をみていたアイチと、激しい頭痛に薬のストックを増やそうと頭を抱えるテツ。
目をハートにしているアサカという反応で、目立ったら潜入調査じゃないし!!とツッコめる人間は不在であった。













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