女性のように美しいレンと、人を寄せ付けない孤高の強さを秘めたかのような櫂は
宮地で知らぬ者がいないほど有名となった。

模擬戦の話も一気に広がり、外見だけでなく中身も強かったのだと文武両道、才色兼備。
お近づきになりたいと、真っ先に目をつけたのが。

「お願い、雀ヶ森君を紹介して!!」
「そっ・・その・・!!」
アイチは全力で廊下を走る、その後ろには多数の女子達。
しかし彼女達の狙いはレンと櫂が、大抵傍にいるアイチだった。

アサカが紹介してくれるタイプでないと、早々に見切りをつけると
人良さそうで断れなさそうなアイチにターゲットを絞ってきた。

「櫂君も、お願い!!」
「何よ、レン君が先よ!!」
「あんた、呼び捨てにしたわね!!」
「この際、両方紹介して!!」
後ろで女子同士で喧嘩まで始まって、大騒ぎに。
廊下を歩いていたレンが追いかけられているアイチの隣についた。

「モテモテですね、さすがアイチ君」
「違います!!」
万年モテ期の一人、レンが合流し、後ろの女子達からは桃色の悲鳴が聞こえる。
この状況にどうして、アイチがモテるなどと言うのだろうか、理解できない。

「雀ヶ森君!!」
「キャー―!」
追いかける女子がさらに増え、追いつかれまいと必死に走るアイチと余裕で笑いながら走るレン。
曲がり角の辺りで急ブレーキをしたアイチは、高くジャンプし、女子達を巻く。

4階の屋上にいるなど、予想もしないのか自分の目の高さの周辺を見渡し、「あっちかしら!」と走り出し
足音が遠ざかっていくのを聞いて、ホッとする。

「何をやっているんだ、お前ら」
ベランダの柵の上に座っていると、屋上にいつの間にかいた櫂が呆れたような話しかけた。
二人は櫂と同じ場所に降りてくる。

「僕のせいじゃないよ、櫂君とレンさんのせいで追いかけまわされたのに」
それを聞いて、二人は特に目立ったことはしてないと互いに顔を合わせて心当たりを探しているが
あの模擬戦でのことも、自覚なしみたいだが何をしにきたのか目的がわからなくなってきた。

「それに、あんなに力を出したりして、何を考えているんですか」
「・・あれでも手加減はしたぞ」
櫂的に、であろう。

「そうですよ、あいつらが弱いから悪いんですよ」
生きる価値もないとか、妖しく笑う姿に春なのにアイチは悪寒がした。
最近思うにレンは黒い部分と白い部分の二つがあるのではないかと、アイチはレンを観察して思う。

目立つなと言っても、顔は整っている二人に言っても無駄だった。
櫂は変装のためのメガネもほとんど意味をなしていないし、本当にこれでアクアフォースのカードも見つかるのだろうか。

「そういえば、レンさん。シャドウパラディンじゃなかったですね」
「あれはAL4連合王族に伝わる禁忌のクランですので、使ったらバレてしまいますよ。
でも、僕全クラン使えますから問題ありません」

今日はグランブルーの気分で、明日はペイルムーンにでもしようかと言っていたが
全てのクランを使えると言ったことにアイチは、驚いた。

「全てのっ・・・て」
最高まで3つまでが限界のはずなのに、レンは全てのカードを使いこなせると何度もなく言っていた。
櫂も火力調整が難しいかげろうを使えるし、それに比べてアイチはロイヤルパラディンを失いかけ
新たなゴールドパラディンからも、戸惑ってカードすら見ようともしなくて、切り替えの悪さが情けない。

レンが「アイチ君も、テツが全クラン持ってきてますけど使います?」と話かけるが、曖昧な返事をして
何を話したのかよく覚えてはいなかった。

「はぁ・・」
放課後を利用して、学園内をそれらしい感覚がないかを探している。
何か、PSYクオリアの第六感みたいなものを感じるかと、歩き回っているがそれらしい感覚は今のところなし。

噴水のところに腰掛け、休憩していると。


「こんなところで、休んでどうしたんですか?」


人の気配など、まったく感じなかった。
声のした方へと顔を向けると、この間夢に出てきた白い髪の少年が笑顔で「こんにちは」と言ってアイチに近づいてくる。

「えっと・・君は?」
学園の制服は着ていないが、初等部の子だろうか?
アイチの隣に腰掛けると彼は顔を見上げて。

「元気が、なさそうだけど何か悩みでもあるの?」
「うん・・僕の周りには凄い人ばかりだなって・・なのに僕は」

そう考えると、アイチの思考は下り坂だ。
レンを倒したのも奇跡では?

テツもアサカも、自分の身の周りのことはしっかりできているのに
アイチはエミがいないとやっぱり何もできなくて、同室の櫂に助けてもらってばかりで頑張ろうとしているのに空振りばかりで。

「他人の畑は綺麗に見えるもの、だよ。アイチ」
「あっ・・・その・・」

「タクトって、呼んでねアイチ。そうだ、こんな時はユニット達に相談してみたら」
いつの間にかアイチのポケットからカードケースを取り出し、手渡す。
中身はやっぱりゴールドパラディン、使ったこともないカードでもらったはいいが戦えるかどうか、不安で

ロイヤルパラディン達の絆が、薄くなってしまいそうで怖い。

「君は真逆の性質の人間だけではなく、カードと繋がることができる。
凄い力を持っているだよ、目を閉じて意識を集中させて」
言う通り、目を閉じるとそこは亜空間のような場所。
ふわりっと降りて、顔を上げると黄金に輝く髪の獅子のような男がいた、二つの剣を手に少し怖そうな目に後ろへと下がるが

構わず、降りてくると迷いもなくアイチに近づいていくと膝をついて頭を下げる。

〈マイ・ヴァンガード・・〉
そして、彼が中に入り込んで感覚に襲われる。
マジェスティにスペリオルライドしたような、不思議に今までの迷いがちっぽけにみえた。

「そっか・・・。ありがとう・・」
目を開けて、隣に顔を向けたが少年の姿はない。
幻、しかし渡されたカードケースから彼の人肌の感覚はあった、幽霊とかの類ではなさそうだ。




夕食を済ませ、各部屋に一つずつあるシャワーをアイチは浴びて、勇気を出す。
櫂にアイチは大人になったことの証明のため、こっそり買った『アレ』を試すために、一度も袖を通してはいない。

勢いで買ってしまったが、朝は頑張って早起きしているつもりなのに、いつも櫂が先に起きているわ
夜もさっさと寝ろと言われるわ、宿題で悩んでいると隣から顔を出して教えてくれたり、二歳しか違わなのに

差をこれ以上、つけられたくない。

「アイチ君ー、シュークリーム食べましょう?・・櫂、アイチ君は?」
シュークリームの入った箱を手に、笑顔で突撃訪問したが、重要書類に目を通す櫂だけ。
ちらりと櫂が横目でレンを見る。

レンが聞くも、櫂は答えないがシャワー室から水音が聞こえ、「入浴中でしたか」とテーブルに手に持っていた箱を置くと
普通にドアノブに手をかけて、中に入ろうとする。

「おい、お前。何をしようとしているんだ」
「何って、背中を流してあげようと」
腕をまくり始めるがどう考えも不味いに決まっていると、シャワー室出入口で口論を始める。
女性のアイチの背中を流すなど、イケメンだからって許されるとでも思っているのか、女湯を覗くのと同等の罪だ。

「別にアイチ君の裸全部見ましたし、僕の裸もアイチ君は見てますから今更恥ずかしがる必要などありません」
「やめろ、それとも俺がアイチの裸の記憶を今から消してやろうか」
頭に強い衝撃を与えると、記憶の一部が消えるらしいと医学の知識がこんなところで役に立つとは。
ついでに常識も叩き込んでやろうかと、入り口で騒いでいると髪を乾かし終えたアイチが顔を出してきた。

「櫂君、それにレンさんも?」
もう入浴したのかと、残念そうなレンを無視する櫂。
しかし扉を全て開けると、櫂は固まり、レンは嬉しそうな顔をしていた。

アイチの着ているものが問題だった。
それは着ている下着が完全に透けているレースの青色のキャミソールに、下着はピンクの花模様。
完全に魅せる下着に、あの櫂の思考が再起動するのに時間がかかっていた。

「わぁっ、カワイイですね。その下着」
「あっ・・ありがとうごさいます」
この時のレンの目はキラリと光り「少し胸が大きくなっていますね」と記憶していたとか。
暫く固まっていた櫂だが、我に返り。

「なんだ、その格好は!!」
寝る時は前開きの青色のパジャマだったはず。
下着もスポーツブラで、ショーツはお尻が完全に隠れるタイプのものだったのに。

男装して過ごしている時、井崎達が男性向け雑誌を貸して、刺激の強さに目を眩んでいたが。

『下着は可愛いものが良いに決まっているだろう、包装紙が可愛ければ中身も期待するだろうが』

その言葉に、アイチは衝撃を受けた。
今まで機能重視に生きてきたことが恥ずかしい、雷に直撃されたような男の考えに
これからはブラのホックがよく外れるから嫌だとか、ビキニタイプの下着は締めつけられるようで履きくないとか

考えるのは止めようと、決意する。

それで大人の女性度を櫂に証明するために、身に着けたが櫂は「元に戻せ」と言われてしまう。
のちに、アイチに妙なことを吹き込んだ井崎達を燃やすと決意して。

「いつ事情知らない男が入ってくるかわからないのに、そんなの着るな」
櫂に言われ、ナオキがやってくる可能性もある、同じ男子寮にいるのだから十分に考えられると
せっかく持ってきたのにと再着替えしようとすると、勝手にアイチの衣類の入ったタンスを探っていたレンが。

「アイチ君、僕はこの下着を身に着けてほしいです」
両方の人差し指でピンッと、両端を引っ張り、中央以外透けているショーツを着てほしいと要求してきた。

もう一つの勝負用下着だと、アイチが言うと櫂のいろんなものがぶち切れした。


「お前は、人のタンスを勝手に漁るな!!」
扉の外で待機しているアサカはメモを取り「レン様は透けているショーツが好み」と
帰国次第、レン好みの下着を買い漁る予定だとか。













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